2016年1月27日水曜日

新事実!長寿とアミノ酸代謝の気になる関係

~総カロリーの制限だけでは長生きできないの?!ショウジョウバエの実験で

昔から健康には腹八分目という言い伝えがあります。このことを裏付けるように最新の医学では、摂取するカロリーを制限すると、多くの生き物で寿命が延びるという現象が確認されてきました。例えば、酵母菌のような原始的な生き物からはじまり、ショウジョウバエ、マウスそしてヒトでも、そうしたことが科学的に確かめられてきました。そしてこれまでは「総カロリー」を抑えるということが議論の中心だったのですが、実はそうではなく食事(食餌)の質が長生きの秘訣かもしれないという報告が最近出されたのです。東京大学大学院薬学研究科の三浦正幸教授、小幡史明特任教授らの研究では、ショウジョウバエの場合、必須アミノ酸である「メチオニン」が体内で代謝されてできる「Sアデノシルメチオニン=SAM」こそが寿命を短くする正体のひとつであることをつきとめたのです。老化したショウジョウバエでは、このSAMが体内に大幅に増加していることを発見した研究者たちは、このことが寿命を短くしていると考えました。そこで、SAMを分解する酵素の脳力を高めたハエと、分解する酵素の働きを失くしたハエを作りSAMと寿命との関係を探ることにしたのです。各々のハエに、長寿効果があるとされる「総カロリーを制限した食餌」を与えてみると、分解する酵素の能力を高めたハエでは寿命が1.2倍に延びましたが、分解酵素の働きを失くしたハエでは長寿の効果が確認されなかったというのです。この実験からは、総カロリーの制限が長寿効果を生んでいるのではなく、メチオニンというアミノ酸が体のなかで適切に代謝されているかどうかが延命効果のメカニズムであることを示唆しています。ただし、これがヒトにも適用できるしくみかどうかはまだこれから確認がはじまるといいます。ショウジョウバエでは長寿の鍵を握っていたSAM。長生きのための食事のありかたについては、新たな議論がはじまり、ますますおもしろい状況になってきました。


2016年1月21日木曜日

老化は口からはじまるという真理

~ちょっとむせただけ!そう甘く考えていると大変なことに・・・~

人の老化はどこからはじまるのでしょう。血管から、足腰から、あるいは脳からでしょうか。どれも正しい指摘かもしれません。しかし忘れている大切な部位がもうひとつあります。それは、「口周り」の機能です。「口腔(こうくう)」とよばれる、歯や舌など飲みこむまでのお口周りの大切さは日々見直されてきました。例えば、高齢者では肺炎などになるのは口内の細菌が肺に入って起こることがわかってきたり、歯周病菌が糖尿病などの全身病と深い関係があることなども指摘されています。いまでは口腔リテラシーが話題となっていて、お口への意識が高く、口腔ケアが出来ている人は長生きするという報告もあります。さて老化です。口から老化、虚弱への道のりがはじまるのではという考え方があります。例えば、歯周病となって痛くてかめないという事態が起こるとしましょう。この方は、やわらかいものを選んで食べるようになり「低栄養」を引き起こします。心の健康状態を悪くするということも起こってしまいます。そしてなにより、かまなくなるとかむための筋肉「側頭筋」や「咬筋」が徐々に委縮しはじめ、さらにかむ力が衰えていきます。筋肉はやっかいです、つまり使わないとすぐ委縮していくものなのです。骨も同じですが、適度な刺激がないと筋肉量や筋力は維持できません。さらには食べ物を飲みこむ機能が衰えていく可能性があります。食事やお茶を飲むときにむせることがありますが、こうしたちょっとした「むせる」という現象も飲みこむための筋肉や、のどの弁などの協調運動がうまくいかない徴候として注目されているのです。むせる回数が増えてきたという人は、ひょっとするとお口の老化、あるいは全身の老化の入り口に立っているのかしれないのです。対策としては考えられているのは、口腔筋肉のトレーニングとか、のどの弁の動きをよくするという破裂音の発声法などあります。そしていまこの研究分野は新たな概念「オーラルフレイル(お口周りの衰弱)」という言葉が提唱されるようになりました。 (参考:大渕修一著 健康長寿の延ばし方)

2016年1月11日月曜日

既存薬を活用し、適応拡大めざす動き

~難病を救えるか!薬とリポジショニング法~

ノーベル医学生理学賞に輝いた大村智北里大学特別栄誉教授が開発した「イベルメクチン」に難治性のがんである胆管がんを縮小する効果があることが動物実験で確かめられたという発表がありました(九州大学医学部・鈴木聡教授のチーム・2015年12月)。ご存知のように、もともと抗寄生虫薬として注目された薬ですが、同じ薬ががん細胞にも効果を現すというのはとても意外な事実です。作用機序としては、胆管がんの細胞の増殖を促すたんぱく質に対してイベルメクチンが不活性化する働きがあるらしいとのこと。いま、こうした既存の薬品を利用して新たな適応を見つけて、新薬として開発しようというのが現在の治療薬開発のトレンドとなっています。これは「ドラッグリポジショニング」と呼ばれています。一般にゼロから新薬を開発するには、膨大な予算と時間がかかります。そこで既存の薬であれば改めて毒性試験など行う手間が必要ないので、きわめて効率的な開発が期待できるのです。この技術の背景には、疾病の遺伝子解析が進んでいることや、疾病を再現した組織の作成、再現が可能になったことがあるといわれています。iPS細胞の培養技術の進歩も大いに貢献しているようです。京都大学での最近の発表によると、難病の「軟骨無形成症」の患者由来のiPS細胞に、悪玉コレステロールの薬である「スタチン」を投与したところ、軟骨形成が回復したという驚きの報告があります(CiRA・妻木範行氏ら)。この研究では作用機序の細かなところはまだ未解明とのことです。国も注目しており、研究班を立ち上げて神経線維種症など難治性疾患のドラッグリポジショニングを推進しようとしています。上記の九州大学では昨年さっそくこの手法を研究開発する全国初の研究所を開設し、本格的な取り組みを始めました。次々と見つかる既存薬の新たな効能に期待は膨らむばかりですが、実際の治療に用いるにはまだ多くの社会制度や倫理規定などの整備が必要と考えられています。








2015年12月28日月曜日

~なぜなの!ゾウはがんになりにくい・・その疑問が新たな治療法へと導く~

まだまだ命をめぐる不思議な話はあるようです。誰もが罹患したくないと思う病気として、がんとアルツハイマー病という高齢者にとってはやっかいな相手がいます。このがんとアルツハイマー病の発症についてお互いの関係を調べたところ、なんと「逆相関」するということがわかってきました(報告:2013 米国VA Boston Healthcare System).。350万人登る高齢者の追跡調査が行われましたが、がんに罹患した人は統合失調症やアルツハイマ―病、パーキンソン病になりにくいという意外な結果が報告されています。しかもこれはがんの種類によらないこともわかっています。この結果を受け研究者たちは、がんの存在がアルツハイマー病に対して、何らかの抑制効果を持つのであれば、アルツハイマ―病の新たな治療薬の開発につながるのではと考えはじめています。まだ仮説の段階ですが、がんを促進させる「遺伝子」が、片方では神経細胞を守る働きを持っているのではと考えられています。しかしその証拠もいくつか見えてきたといいます。そしてこれに類似した研究として、動物の「ゾウ」についての研究があります。ゾウは大きい体にも関わらず、がんになる個体が少ないことが知られています。今年発表された研究結果では、その謎の一端が解明されました(2015 JAMA米国医師会雑誌)。遺伝子の分析を行ってみると、ゾウの体には、がんの形成を抑制するタンパク質(p53)を作るための「遺伝子」が38個あり、これはヒトに比べると19倍にも上る数だとわかったのです。つまりゾウには生まれつきがん化する細胞を殺傷する強力なメカニズムが備わっていたのです。実際がんで死亡するゾウは全体の5%に満たないといいます。ゾウの仲間は進化の過程でこうした能力を「遺伝子の改良」で生き延びてきたといえるでしょう。がんやアルツハイマー病を抑制するという知られていた事実や様々な側面を、遺伝子レベルまで深めて分析、研究すると、これまでにない抗がん剤の開発など新たな治療の光が見えてくるのかもしれません。

2015年12月25日金曜日

~おとぎ話のような「植物たち」の会話術!解き明かされる驚異の自己防衛~

地球の生命の研究史を考えるとき、その存在の重要性にくらべて全くフェアな扱いをされてこなかった存在があります。それは地上の緑のカーテン、「植物」です。植物の研究は動物にくらべやや軽んじられてきたのではないかという意見があります。植物が実は、想像以上に様々な「感覚」を持っていたり、また動物にも劣らない「知恵」もあって、周りの同じ仲間や動物と化学物質を通じて「コミュニケーション」をはかっていることがわかってきたのはほんの20年ほど前のことです。微量物質の検出が技術の進歩で可能になったことで、こうした不思議な植物が放出する化学物質の実態が明かされてきました。たとえば「生物間相互作用ネットワーク」と難しい用語で呼ばれている現象があります。キャベツ畑でキャベツの葉に、アオムシ(モンシロチョウの幼虫)がついて食べはじめると、キャベツからはやがてSOS信号となる「かおり物質」が放たれて、この物質にアオムシの天敵となるアオムシコバチが呼びよせられます。このハチはアオムシに寄生してこのキャベツにとっての害虫を駆除してくれるので、キャベツは大きな食害から逃れることができるのです。さらに、もしキャベツが別のコナガの幼虫などから食べらたときは、キャベツからこのコナガの幼虫を食べてくれる天敵バチを誘引する「別のかおり物質」が放出するのです。つまりキャベツはついた虫によって、救ってくれる天敵を呼ぶ「かおり物質」を使い分けて放出しているのです。驚くべき事実といっていいでしょう。。現在の研究では、「かおり物質」は複数の化学物質のブレンドで構成されていて、そのブレンドの割合を変えることでこうした仕組みが出来上がっていることがわかっています。またアブラナ科のシロイヌナズナを用いた研究では、食害を受けた葉から発せられる物質によって、周りのまだ無傷の仲間の葉で、食害防御に関する遺伝子の活性をめるように誘導していることも確かめられています。植物は仲間を守っているのです。植物は「会話する生命体」だったのです。そしてこのかおり物質だけでなく、まだまだベールに隠された能力が植物にはあると考えられています。これまで静かに二酸化炭素を吸収して食物を提供してくれる存在といった認識しかなかった「植物」は、動物を越えて進化した存在として、まだ誰も本当の姿を知らないのかもしれません。




2015年12月24日木曜日

~スポーツの会に参加すると要介護となる人は必ず減少する!~

健康寿命の延伸のために、課題はどこにあるのか、そのためまずは日本の高齢者を取り巻く社会的な要因を分析し、その生活実態を探ることで明らかにしていこうという野心的な研究が、日本福祉大学の近藤克則教授らによって進められています。北海道から沖縄まで全国の31市町村に居住する65歳以上の高齢者で要介護の認定を受けていない人11万人(回答者)に対する調査が、何年にもわたって続けられています。調査項目を見ると大きく「健康」、「生活」、「社会」、「経済」などの4つの柱建てになっています。例えば健康では自立度、うつ、転倒、口腔ケア、栄養状態、また生活では閉じこもり、趣味、虐待、友人関係など、社会の項目では、地域への参加、ソーシャルキャピタル(社会での信頼関係)、経済の項目では収入、就業、教育歴などが調べ上げられ、高齢者の全体像を多面的にあぶりだそうとしているところがとても興味深いと思います。特にそのなかで、「運動疫学」とよばれる分野、つまり「スポーツ(組織)への参加」と「要介護の認定有無」との関連を検討した報告はいろいろなことを教えてくれます。この調査は愛知県の高齢者1万3千人(回答者)を分析したものですが、市民運動、ボランティア、趣味といった社会参加の項目と要介護になるリスクの関係が分析された結果、一番要介護になるリスクを低めたのは、スポーツの会への参加でした。何にも参加していないグループにくらべて、スポーツの会に参加しているグループは、何とリスクが34%低くなるというものでした。またスポーツ(運動)の回数やスポーツの会(組織)へ所属の有無など詳細を調べたものでは以下のような結果でした。週1回以上運動している人では、スポーツ組織に参加してる人にくらべ参加していない人は3割ほど要介護になりやすい(4年間に)、また週1回未満の方でもこれは同じような傾向を示したといいます。「スポーツの会への参加」がキーワードとして浮かび上がってきたのです。研究者たちは、組織へ参加することで、社会的な交流や支え合いなどがあり、その「心理的な効果」が結果として、要介護発生の抑制へとつながったのではないかと分析しています。地域での高齢者スポーツ組織の設立や拡充など、新たな介護予防対策がここからも見えてきたようです。  参考: 運動疫学研究 2013;15(1):31-35

2015年12月21日月曜日

~そうだったのか!老化は直線的に機能が低下するというのはウソ~

「老化」について人々はどんなイメージを持っているでしょうか。それは運動能力や体力が徐々に低下していく、「右肩下がりのグラフ」のようなものではないでしょうか。こうした直線的に健康度が下がっていくという老化のモデルはいまや否定されつつあります。もちろん重い生活習慣病など疾病をもつ人は、健康寿命に届かずに死亡すると考えられますが、こうした特定の病気にならずに自然に老いる人は、実は晩年まで体の機能を相当部分維持していて、亡くなる直前に急激に機能が落ちていくという、「終末期低下型」と呼ばれる老化の推移をたどるといいます。これは海外や国内での研究から明らかになってきた新しい老化のイメージです。もう20年ほど前に、米国での100歳老人などを対象にした研究を取材したことがありますが、多くの老人が亡くなる直前まで体の機能が十分維持されている実像が明らかになりました。加齢とともに介護の程度がどんどん高まっていくという考え方は間違っていることが示され、その後の米国の高齢者対策に少なからず影響を及ぼしました。さらにこれまで老化現象そのものは「不可逆的に進行」するものと考えられてきましたが、体力や筋力の低下に対して、筋トレなど適切な方法でトレーニングを行うと、実際には身体機能が著しく落ちた人でも、改善する(不可逆的でなく機能が戻ることがある)ことは十分可能ということもわかってきたのです。これは高齢者にとって大きな朗報ではないでしょうか。高齢者は年々できることが減っていくものという通念は間違った考え方だったのです。高齢者の増加で医療費が限りなく増えていくといった懸念が持たれていますが、この新しい老化のイメージに切り替えれば、なにかもっと違うアイデアも生まれてくるのではないかと思います。いまこそ、皆がこの老化の真の姿を知る必要があります。この老化モデルを理解してもらうためには、親しまれる言葉で啓発する必要もあるようです。「ピンピンコロリ」という言葉はあまり好みません。筆者は、とりあえず「なだらか老化論」、「元気な老化モデル」あるいは「アクティブ老化」とかはどうかと考えています。
参考:「健康寿命の延ばし方」大渕修一著など