2017年5月29日月曜日

土壌は貴重な「資源」である~農地の洪水流失被害で思うこと~

 昨年の北海道の富良野での台風被害は、その実態が科学的に詳しく紹介されてこなかったように思います。これはメディアの責任、特に科学ジャーナリストの責任があると考えています。
 あまり報道されてこなかった事実として、この地が全国有数の「種イモ生産地」であって、実はここから種イモが日本中に供給されているという事実でしょうか。つまり富良野の被害は、富良野に留まらず、全国のイモ生産に大きな影響があったということです。特別に品質が問われる種イモは富良野のような寒冷地でないとうまく生産されないといいます。イモは私たちが日常口にしている食材ですが、そんな食材のことを何と無知であったかを教えてくれているようです。それにポテトチップスのような商品が、不足し生産ストップになっているということなどは詳しく報道されても、その背景を科学的視点で取材したものを目にすることはありません。
 富良野での洪水被害関連であまり報道されてこなかった事実として、この地の貴重な「土壌」が大規模に流失し、奪われたことではないでしょうか。農家の方々が嘆いておられるように、農業の土=土壌は一朝一夕にできるものではありません。これは何代もかけ、有機肥料やたい肥で育て上げられた「財産=資源」なのです。イモの成長にふさわしい土壌は、何年もかけて「培われてきた」ものなのです。他に土地から土を運べばいいじゃないかと考えている人は多いと思いますが、イモ栽培の土壌は時間をかけて育て上げtられた「資源」なのです。土壌を研究している学者は、岩石が砕かれて植物が育ち、その有機物がまた分解されて土の粒をつくっていくという工程が、実に時間にかかる作業であることを明らかにしています。またそこに棲息する、ひとつかみで何億匹もいる微生物あるいは小動物などの働きは重要とされていますが、その99%はいまだどういう働きと作用をもった微生物かはわかっていないといいます。その地で生態系にさらされて作り出された「土壌」は、ほかのどの土地の土壌でもない、独特の個性と特性をもった土壌なのです。つまり現在、人がこうしした土壌を科学で作り出すことはできないのです。土壌というものがいかに貴重な「資源」であるかはこれで理解していただけると思います。復興にも影響するこうした科学的な事実こそもう少しきちっと伝えるべきではないでしょうか。写真:富良野観光協会




2017年5月24日水曜日

想像を超える「超巨大噴火」があらゆる生物の命を奪った!



 2億5200万年前にあった史上最大の生物大量絶滅は、古生代が終わり、中生代の幕開けを知らせる地球史上のイベントとして記録されています(ペルム紀末大量絶滅 P/T境界)。このとき、生物の大量絶滅がなぜ起こったのか理由について様々な議論がなされていますが、確実にわかっているはこの時期、マントルオーバーターンの動きである「ホットプルーム」の活動が非常に活発になり、「超巨大噴火」が各地であったことです。ユーラシア大陸ではシベリア地域でこの大噴火の証拠を示す、玄武岩の広大な大地が見つかっています。玄武岩は、粘性の少ないマグマが固まってできたものです。
 その面積は、700万平方キロメートル、日本の国土をはるかにしのぐ大きさの「熔岩大地」です。こうした超巨大噴火の遺跡ともいえる、玄武岩の大地はインドのデカン高原、アメリカのコロンビア台地などが有名ですが、現在の海洋の海底で見られる「海台」と呼ばれる広大な海底台地も実は、この玄武岩台地と考えられています。「洪水玄武岩」という名前がついています。この人類が経験したことにない規模の火山活動では、火山ガスが大気に大量にまかれ微粒子が全地球に漂い、太陽光を遮って異常気象を引き起こしました。また硫酸の雨が降り、環境はさらに悪化し気温も長期にわたり、数十度も下がったと考えられています。植物が消え、海も酸素欠乏状態となり、あらゆる生物は存在できないようになったものと思われます。
 ここでいう「超巨大噴火」とは、数千万年から一憶年に一度あるという地球規模の噴火現象であり、私たちが知っているピナツボなどの噴火規模レベルではありません、もっともっと大規模な火山噴火が地球の歴史では繰り返し起こってきたのです。
 
<画像はシベリア洪水玄武岩  引用原文:Nature (2011-09-15) | doi: 10.1038/477285a >


   







2017年5月15日月曜日

いま「天然原子炉」の化石に学ぶべきもの

 地球史のなかでひとつ謎めいた事実を挙げるとすれば、それは遠い昔にアフリカに「天然原子炉」が存在したという報告でしょうか。1972年ころ、ガボン共和国のオクロ鉱山でのフランス人研究者がある驚くべき事実をつきとめました。原子炉の燃料となる「ウラン」の同位体238と235の比率を調べたところ、他の地域と明らかに異なる比率を示したと言います。これはこの地で「核連鎖反応」が起こったことを科学的には示しています。では、なぜ核反応が生じたか、研究者たちはこれはきっと「自然の原子炉」が機能したのではと推量しました。「原子炉の化石」ではないかと考えたのです。
 核連鎖反応には、ウラン235の十分な濃縮と周囲に水が存在することが必要とされます。水があることで連鎖反応は促進されるといいます。こうしたことは、可能性は論じられてきましたが、オクロのデータは計算によるとおよそ18億年前に実際に自然界で、核反応が起こったことを教えてくれています。その規模は、現在の商業用原子炉に比べ小さいものとされていますが、数十万年にわたり断続的に核連鎖反応が生じたものと考えられています。
 この自然原子炉は、興味深い特異な地質ポイントというだけでなく、実は現代の私たちの社会的な問題と関連しています。原子力を使用することで必然的に常時発生する、「放射性廃棄物」をどう処分するかという問題です。最良の方策として検討されている、地中への埋設法でオクロは大きな情報を提供してくれるのです。例えば、揮発性の核生成物、カドミウムとかセシウムなどは大部分失われているのに対して、ウランやトリウムは18億年経ってもそのまま残っていることなどが事実として分かっています。オクロのことをもっと論じていくべきではないでしょうか。核廃棄物の処理法については、いまや誰も真剣に議論しないようになっていますが、こうしている間も、核のゴミはこの狭い国土に蓄積され続けています。