~食事で炭水化物を制限すべきか~
穀物を摂ることが生活習慣病など健康問題で諸悪の根源ではないかといった議論が盛んになされています。それは人類が農業をはじめて以来、現代の飽食へと続く道をまっしぐらに歩んできたのではないかと考える健康主義者の意見です。こうした意見を述べる人たちは、10万年前から数万年前の長い狩猟と採集の時代に人間の体は進化適応してきたので、農業を発明し、炭水化物を安易にそして過剰に摂取できる現代のような食生活には人の体は対応しきれていないということを指摘します。そして理想の食事は10万年前の肉食中心で果実などを摂る「原始人の食卓」ではないかと考えています。実際、アメリカではこのパレオ(石器時代)式の食事やライフスタイルを実践している、熱心な主義者(パレオ主義者)もいるといいます。
しかし、こうした議論への反論もあります。いまから200万年前に生存していたアウストロピテクス・セディバという霊長類の仲間の歯からは、植物(穀物)が見つかっていて、デンプン質を食べていたことがわかったこと、またネアンデルタール人などは穀物を食べる習慣があり、加工していた可能性さえ指摘されるに至り、パレオ主義の論拠が揺らいでいます。炭水化物は考えられているよりもっと昔、人類初期の時代から摂っていた可能性があるのです。また進化生物学が明らかにしてきたことは、これまで進化を起こす時間としてはあまりにも短いと考えられてきた、数千年といった短い時間の単位でも、場合によっては「急速な進化」が起こることがあり得る、すなわち人類はすでに炭水化物を摂取する食生活にある程度適応しているのではないかという意見があります。背景には昆虫や爬虫類、鳥類では30年といった期間で、体形や行動が変化する「進化現象」が起こる事実がいま次々と知られるようになってきたことがあります。生物学では大きな話題となっています。
血糖値が加齢とともに上昇していく中高年にとっては、この論争、一日でもはやく科学的に決着をつけてほしいものです。
(進化生物学者マーリーン・ズック女史がその著「PALEO FANTASY」でパレオ主義を批判的に論じています。)
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