~総カロリーの制限だけでは長生きできないの?!ショウジョウバエの実験で
昔から健康には腹八分目という言い伝えがあります。このことを裏付けるように最新の医学では、摂取するカロリーを制限すると、多くの生き物で寿命が延びるという現象が確認されてきました。例えば、酵母菌のような原始的な生き物からはじまり、ショウジョウバエ、マウスそしてヒトでも、そうしたことが科学的に確かめられてきました。そしてこれまでは「総カロリー」を抑えるということが議論の中心だったのですが、実はそうではなく食事(食餌)の質が長生きの秘訣かもしれないという報告が最近出されたのです。東京大学大学院薬学研究科の三浦正幸教授、小幡史明特任教授らの研究では、ショウジョウバエの場合、必須アミノ酸である「メチオニン」が体内で代謝されてできる「Sアデノシルメチオニン=SAM」こそが寿命を短くする正体のひとつであることをつきとめたのです。老化したショウジョウバエでは、このSAMが体内に大幅に増加していることを発見した研究者たちは、このことが寿命を短くしていると考えました。そこで、SAMを分解する酵素の脳力を高めたハエと、分解する酵素の働きを失くしたハエを作りSAMと寿命との関係を探ることにしたのです。各々のハエに、長寿効果があるとされる「総カロリーを制限した食餌」を与えてみると、分解する酵素の能力を高めたハエでは寿命が1.2倍に延びましたが、分解酵素の働きを失くしたハエでは長寿の効果が確認されなかったというのです。この実験からは、総カロリーの制限が長寿効果を生んでいるのではなく、メチオニンというアミノ酸が体のなかで適切に代謝されているかどうかが延命効果のメカニズムであることを示唆しています。ただし、これがヒトにも適用できるしくみかどうかはまだこれから確認がはじまるといいます。ショウジョウバエでは長寿の鍵を握っていたSAM。長生きのための食事のありかたについては、新たな議論がはじまり、ますますおもしろい状況になってきました。
2016年1月27日水曜日
2016年1月21日木曜日
老化は口からはじまるという真理
~ちょっとむせただけ!そう甘く考えていると大変なことに・・・~
人の老化はどこからはじまるのでしょう。血管から、足腰から、あるいは脳からでしょうか。どれも正しい指摘かもしれません。しかし忘れている大切な部位がもうひとつあります。それは、「口周り」の機能です。「口腔(こうくう)」とよばれる、歯や舌など飲みこむまでのお口周りの大切さは日々見直されてきました。例えば、高齢者では肺炎などになるのは口内の細菌が肺に入って起こることがわかってきたり、歯周病菌が糖尿病などの全身病と深い関係があることなども指摘されています。いまでは口腔リテラシーが話題となっていて、お口への意識が高く、口腔ケアが出来ている人は長生きするという報告もあります。さて老化です。口から老化、虚弱への道のりがはじまるのではという考え方があります。例えば、歯周病となって痛くてかめないという事態が起こるとしましょう。この方は、やわらかいものを選んで食べるようになり「低栄養」を引き起こします。心の健康状態を悪くするということも起こってしまいます。そしてなにより、かまなくなるとかむための筋肉「側頭筋」や「咬筋」が徐々に委縮しはじめ、さらにかむ力が衰えていきます。筋肉はやっかいです、つまり使わないとすぐ委縮していくものなのです。骨も同じですが、適度な刺激がないと筋肉量や筋力は維持できません。さらには食べ物を飲みこむ機能が衰えていく可能性があります。食事やお茶を飲むときにむせることがありますが、こうしたちょっとした「むせる」という現象も飲みこむための筋肉や、のどの弁などの協調運動がうまくいかない徴候として注目されているのです。むせる回数が増えてきたという人は、ひょっとするとお口の老化、あるいは全身の老化の入り口に立っているのかしれないのです。対策としては考えられているのは、口腔筋肉のトレーニングとか、のどの弁の動きをよくするという破裂音の発声法などあります。そしていまこの研究分野は新たな概念「オーラルフレイル(お口周りの衰弱)」という言葉が提唱されるようになりました。 (参考:大渕修一著 健康長寿の延ばし方)
人の老化はどこからはじまるのでしょう。血管から、足腰から、あるいは脳からでしょうか。どれも正しい指摘かもしれません。しかし忘れている大切な部位がもうひとつあります。それは、「口周り」の機能です。「口腔(こうくう)」とよばれる、歯や舌など飲みこむまでのお口周りの大切さは日々見直されてきました。例えば、高齢者では肺炎などになるのは口内の細菌が肺に入って起こることがわかってきたり、歯周病菌が糖尿病などの全身病と深い関係があることなども指摘されています。いまでは口腔リテラシーが話題となっていて、お口への意識が高く、口腔ケアが出来ている人は長生きするという報告もあります。さて老化です。口から老化、虚弱への道のりがはじまるのではという考え方があります。例えば、歯周病となって痛くてかめないという事態が起こるとしましょう。この方は、やわらかいものを選んで食べるようになり「低栄養」を引き起こします。心の健康状態を悪くするということも起こってしまいます。そしてなにより、かまなくなるとかむための筋肉「側頭筋」や「咬筋」が徐々に委縮しはじめ、さらにかむ力が衰えていきます。筋肉はやっかいです、つまり使わないとすぐ委縮していくものなのです。骨も同じですが、適度な刺激がないと筋肉量や筋力は維持できません。さらには食べ物を飲みこむ機能が衰えていく可能性があります。食事やお茶を飲むときにむせることがありますが、こうしたちょっとした「むせる」という現象も飲みこむための筋肉や、のどの弁などの協調運動がうまくいかない徴候として注目されているのです。むせる回数が増えてきたという人は、ひょっとするとお口の老化、あるいは全身の老化の入り口に立っているのかしれないのです。対策としては考えられているのは、口腔筋肉のトレーニングとか、のどの弁の動きをよくするという破裂音の発声法などあります。そしていまこの研究分野は新たな概念「オーラルフレイル(お口周りの衰弱)」という言葉が提唱されるようになりました。 (参考:大渕修一著 健康長寿の延ばし方)
2016年1月11日月曜日
既存薬を活用し、適応拡大めざす動き
~難病を救えるか!薬とリポジショニング法~
ノーベル医学生理学賞に輝いた大村智北里大学特別栄誉教授が開発した「イベルメクチン」に難治性のがんである胆管がんを縮小する効果があることが動物実験で確かめられたという発表がありました(九州大学医学部・鈴木聡教授のチーム・2015年12月)。ご存知のように、もともと抗寄生虫薬として注目された薬ですが、同じ薬ががん細胞にも効果を現すというのはとても意外な事実です。作用機序としては、胆管がんの細胞の増殖を促すたんぱく質に対してイベルメクチンが不活性化する働きがあるらしいとのこと。いま、こうした既存の薬品を利用して新たな適応を見つけて、新薬として開発しようというのが現在の治療薬開発のトレンドとなっています。これは「ドラッグリポジショニング」と呼ばれています。一般にゼロから新薬を開発するには、膨大な予算と時間がかかります。そこで既存の薬であれば改めて毒性試験など行う手間が必要ないので、きわめて効率的な開発が期待できるのです。この技術の背景には、疾病の遺伝子解析が進んでいることや、疾病を再現した組織の作成、再現が可能になったことがあるといわれています。iPS細胞の培養技術の進歩も大いに貢献しているようです。京都大学での最近の発表によると、難病の「軟骨無形成症」の患者由来のiPS細胞に、悪玉コレステロールの薬である「スタチン」を投与したところ、軟骨形成が回復したという驚きの報告があります(CiRA・妻木範行氏ら)。この研究では作用機序の細かなところはまだ未解明とのことです。国も注目しており、研究班を立ち上げて神経線維種症など難治性疾患のドラッグリポジショニングを推進しようとしています。上記の九州大学では昨年さっそくこの手法を研究開発する全国初の研究所を開設し、本格的な取り組みを始めました。次々と見つかる既存薬の新たな効能に期待は膨らむばかりですが、実際の治療に用いるにはまだ多くの社会制度や倫理規定などの整備が必要と考えられています。
ノーベル医学生理学賞に輝いた大村智北里大学特別栄誉教授が開発した「イベルメクチン」に難治性のがんである胆管がんを縮小する効果があることが動物実験で確かめられたという発表がありました(九州大学医学部・鈴木聡教授のチーム・2015年12月)。ご存知のように、もともと抗寄生虫薬として注目された薬ですが、同じ薬ががん細胞にも効果を現すというのはとても意外な事実です。作用機序としては、胆管がんの細胞の増殖を促すたんぱく質に対してイベルメクチンが不活性化する働きがあるらしいとのこと。いま、こうした既存の薬品を利用して新たな適応を見つけて、新薬として開発しようというのが現在の治療薬開発のトレンドとなっています。これは「ドラッグリポジショニング」と呼ばれています。一般にゼロから新薬を開発するには、膨大な予算と時間がかかります。そこで既存の薬であれば改めて毒性試験など行う手間が必要ないので、きわめて効率的な開発が期待できるのです。この技術の背景には、疾病の遺伝子解析が進んでいることや、疾病を再現した組織の作成、再現が可能になったことがあるといわれています。iPS細胞の培養技術の進歩も大いに貢献しているようです。京都大学での最近の発表によると、難病の「軟骨無形成症」の患者由来のiPS細胞に、悪玉コレステロールの薬である「スタチン」を投与したところ、軟骨形成が回復したという驚きの報告があります(CiRA・妻木範行氏ら)。この研究では作用機序の細かなところはまだ未解明とのことです。国も注目しており、研究班を立ち上げて神経線維種症など難治性疾患のドラッグリポジショニングを推進しようとしています。上記の九州大学では昨年さっそくこの手法を研究開発する全国初の研究所を開設し、本格的な取り組みを始めました。次々と見つかる既存薬の新たな効能に期待は膨らむばかりですが、実際の治療に用いるにはまだ多くの社会制度や倫理規定などの整備が必要と考えられています。
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