2016年1月11日月曜日

既存薬を活用し、適応拡大めざす動き

~難病を救えるか!薬とリポジショニング法~

ノーベル医学生理学賞に輝いた大村智北里大学特別栄誉教授が開発した「イベルメクチン」に難治性のがんである胆管がんを縮小する効果があることが動物実験で確かめられたという発表がありました(九州大学医学部・鈴木聡教授のチーム・2015年12月)。ご存知のように、もともと抗寄生虫薬として注目された薬ですが、同じ薬ががん細胞にも効果を現すというのはとても意外な事実です。作用機序としては、胆管がんの細胞の増殖を促すたんぱく質に対してイベルメクチンが不活性化する働きがあるらしいとのこと。いま、こうした既存の薬品を利用して新たな適応を見つけて、新薬として開発しようというのが現在の治療薬開発のトレンドとなっています。これは「ドラッグリポジショニング」と呼ばれています。一般にゼロから新薬を開発するには、膨大な予算と時間がかかります。そこで既存の薬であれば改めて毒性試験など行う手間が必要ないので、きわめて効率的な開発が期待できるのです。この技術の背景には、疾病の遺伝子解析が進んでいることや、疾病を再現した組織の作成、再現が可能になったことがあるといわれています。iPS細胞の培養技術の進歩も大いに貢献しているようです。京都大学での最近の発表によると、難病の「軟骨無形成症」の患者由来のiPS細胞に、悪玉コレステロールの薬である「スタチン」を投与したところ、軟骨形成が回復したという驚きの報告があります(CiRA・妻木範行氏ら)。この研究では作用機序の細かなところはまだ未解明とのことです。国も注目しており、研究班を立ち上げて神経線維種症など難治性疾患のドラッグリポジショニングを推進しようとしています。上記の九州大学では昨年さっそくこの手法を研究開発する全国初の研究所を開設し、本格的な取り組みを始めました。次々と見つかる既存薬の新たな効能に期待は膨らむばかりですが、実際の治療に用いるにはまだ多くの社会制度や倫理規定などの整備が必要と考えられています。








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