高齢者の研究ははじめ、加齢によって生じる生理的機能の変化とは何か、あるいは生活習慣病への対策を探りたいという方向で研究がはじまったと考えられます。やがて「長寿革命」で先進国ではある程度の人の長寿が達成できると、長生きできるがただ無為に長生きするだけとか、あるいは寝たきりの老人が増える一方という現実に遭遇することとなります。そして長寿は量から質つまり、
QOL「生活の質」を高めることが最大の課題といわれるようになったきたのです。このことは高齢者のマイナス部分に注目するのではなく、ポジティブな部分にも関心がもたれるようになります。実際現実の社会を見てみると、高齢者の大半を占める「健常な老化群」は、高齢期を迎えても健康で自立していて、また社会にも十分社会に貢献できる能力を有している人々であり、これまでの生産活動から退き、体力気力も減衰し、社会から離脱していくという高齢期のイメージをみごとに覆していると言わざるを得ないのです。日本では、60歳以上に働きたいですかと聞いた質問には71.9%の人が働きたいと答えているといいます。欧米の価値観では、自立と生産が重要とされるといいますが、この自立と生産をもし高齢期でも維持し、生涯継続することができれば、それがすばらしい長寿といえるのではないかという考え方が欧米で広がりました。サクセスフル・エイジングという理念です。サクセスフル・エイジングとはより良く生きること、自分らしく生きることということでしょうか。この考え方にもこれまで多くの議論が闘われてきました。いまは「中年期までに形成した行動パターンや生活、パーソナリティを継続し、なおかつ変化に適応対処している老年期」という定義が、あるべき理想ではないかという「継続理論」が提唱されています。老年期が過去に例がないほど長くなった現在、理想の老い方についての熱い議論はまだまだ続くようです。
参考:「高齢社会の教科書」(東京大学・高齢社会総合研究機構編)
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