医療の劇的な転換期、“先制医療”は夢の医療なのか?~
医療のこれまでを振り返ると、医師たちは人々が何か体の異常を訴えてきたときはじめてそれに対応してきました。また私たちも健康なときに予防的に医者を訪ねるという人はほとんでいなかったと思います。認知症やがん、生活習慣病といった現在人を悩ます病気の解明が、どんどん進んだ結果、病気になるまでの経緯(プロセス)が明らかになるにつれ、この常識がいま変わろうとしています。
例えばがんは、一個のがん細胞が生まれてから相当な長い時間をかけて成長するものが多いのですが、特定の遺伝子あるいは遺伝子の組み合わせがそのがんを誘発することも知られています。また認知症では脳内にアミロイドベータが蓄積するのに数10年単位の時間がかかっていることが明らかになっています。こうした遺伝子による発病の確立が診断できるようになったり、また発病の指標である「バイオマーカー」により、その人がこの先どれだけ病気に近づいているかなどが診断できるようになってきました。こうした背景で登場してきたのが先制医療という新たな医療の展開です。
ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが「予防的」に乳房を全摘出したニュースを記憶しておられる方は多いと思いますが、これは遺伝子診断をもとにした、乳がんと卵巣がんを予防する先制医療の試みの例といえるものです。こうした先手を打つ予防医療はがん以外でも、心血管系の病気、肥満や糖尿病といったメタボリックシンドロームによる病気、そして精神疾患まで多くの病気で検討が加えられるようになってきました。ただしリスク因子と発症のエビデンス蓄積や正確なバイオマーカーの研究など、今後多くの医学研究の蓄積が必要と考えられています。また先制医療は、個の医療をめざしていて、その意味では米国が提唱している「精密医療(適確医療)」と同じ方向を向いていると考えられています。精密医療はバイオマーカーなどを使って個人に合わせた治療をめざすものですが、それを予防に生かすのが先制医療と考えられています。
どちらも膨らむ医療費の削減をめざしているといいますが、本当に病人がこうした医療で減っていくのかどうかはこれからの検証が必要です。また医療関係者だけの発想で流れていくのではなく、私たち市民の声、患者の考え方も力強く発言して反映させるべきでしょう。この医療革新をどのように進めていくべきかがいま問われています。
2016年2月23日火曜日
2016年2月17日水曜日
糖尿病が極端に少ない!百寿者の真実
スーパー高齢者のからだの秘密がわかってきたぞ!
自分がそうなりたいかは別として、100歳以上長生きする人は増え続けています。現在5万人をはるかに超え、50年後にはなんと50万人以上になるのではという推計もあります。日本ではこの100歳を超えた長寿者はめでたく「百寿者」と呼ばれており、英語でも「センテナリアン」という敬称があります。こうしたスーパー老人を対象にして、長寿の謎を探る医学研究が世界中で盛んに続けられています。慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの取り組みもその一つですが、同センターの新井康道さんらの研究でおよそ次のような百寿者像がわかってきました。
まず100歳を超えて元気なかたの特徴は、圧倒的に元気で見た目が若々しいという特徴があるといいます。また「糖尿病」や「動脈硬化」の症状が少なく、食欲は旺盛で常に何かに熱心に取り組むという生活態度が見られるとのことです。地域で比較すると沖縄や高知など温暖な土地が長寿を育んでいると分析されています。性格の傾向は、男女とも「誠実なこと」があげられ、男性ではものを集める凝り性タイプ、女性では外交的で面倒見がよく、しかも新しものが好きとい特徴がわかっています。食事では乳製品や果物、お菓子など甘いものをよく摂っているという意外な特徴もあるようです。
では皆病気知らずかといえば、そうでもなくほぼ全員何かしらの病気を持っていて、高血圧、骨折、白内障、心臓病の順に罹患していています(60%~30%程度)。また体形は肥満でも痩せでもない人が多いと報告されています。医学的事実として最も特徴的で特筆すべきなのは、糖尿病患者が極端に少ないこと。東京都内で母数300名での調査ですが、百寿者の糖尿病の罹患率を調べたところ、なんと6%という低さだったといいます。70代の同病罹患率では通常20%ほどですので百寿者は糖尿病を持っていないことが大きな特徴と分析されています。さらに興味深いのは「アディポネクチン」という脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの値です。アディポネクチンは糖尿病や動脈硬化あるいはがんなどの病気を体内で防御してくれることが知られていますが、百寿者のアディポネクチンの血中濃度は、若い年代のおよそ2倍あることがつきとめられました。また遺伝子(テロメア長)や炎症マーカーによる分析も進んでいて、百寿の医学から、長寿のメカニズムの全貌が明らかになる日もそう遠くはないという感がします。
自分がそうなりたいかは別として、100歳以上長生きする人は増え続けています。現在5万人をはるかに超え、50年後にはなんと50万人以上になるのではという推計もあります。日本ではこの100歳を超えた長寿者はめでたく「百寿者」と呼ばれており、英語でも「センテナリアン」という敬称があります。こうしたスーパー老人を対象にして、長寿の謎を探る医学研究が世界中で盛んに続けられています。慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの取り組みもその一つですが、同センターの新井康道さんらの研究でおよそ次のような百寿者像がわかってきました。
まず100歳を超えて元気なかたの特徴は、圧倒的に元気で見た目が若々しいという特徴があるといいます。また「糖尿病」や「動脈硬化」の症状が少なく、食欲は旺盛で常に何かに熱心に取り組むという生活態度が見られるとのことです。地域で比較すると沖縄や高知など温暖な土地が長寿を育んでいると分析されています。性格の傾向は、男女とも「誠実なこと」があげられ、男性ではものを集める凝り性タイプ、女性では外交的で面倒見がよく、しかも新しものが好きとい特徴がわかっています。食事では乳製品や果物、お菓子など甘いものをよく摂っているという意外な特徴もあるようです。
では皆病気知らずかといえば、そうでもなくほぼ全員何かしらの病気を持っていて、高血圧、骨折、白内障、心臓病の順に罹患していています(60%~30%程度)。また体形は肥満でも痩せでもない人が多いと報告されています。医学的事実として最も特徴的で特筆すべきなのは、糖尿病患者が極端に少ないこと。東京都内で母数300名での調査ですが、百寿者の糖尿病の罹患率を調べたところ、なんと6%という低さだったといいます。70代の同病罹患率では通常20%ほどですので百寿者は糖尿病を持っていないことが大きな特徴と分析されています。さらに興味深いのは「アディポネクチン」という脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの値です。アディポネクチンは糖尿病や動脈硬化あるいはがんなどの病気を体内で防御してくれることが知られていますが、百寿者のアディポネクチンの血中濃度は、若い年代のおよそ2倍あることがつきとめられました。また遺伝子(テロメア長)や炎症マーカーによる分析も進んでいて、百寿の医学から、長寿のメカニズムの全貌が明らかになる日もそう遠くはないという感がします。
2016年2月10日水曜日
ジカ熱対策で注目の「生物的防除法」
われらが仲間!コウモリさん頑張って!嫌われ者から救世主へ
中南米で「ジカウイルス」の感染者が急増し心配されています。もともとアフリカ、東南・南アジア、オセアニアなどで感染が確認されていましたが、中南米では感染例がなかったといいます。人々の国を越えての移動が盛んになっていることと、中南米の人々のウイルス耐性がなかったことがその要因としてあげられています。症状は軽いが、妊婦が感染すると新生児に障害が生まれる可能性が指摘されています。媒介するのはネッタイシマカやヒトスジシマカといわれています。日本にはネッタイシマカはいませんが、ヒトスジシマカは日本のどこでも棲息する蚊です。蚊の防除法としてにわかに注目を浴びているのが、「生物的防除」です。報道されているように「コウモリ」を使って蚊を退治する方法です。すでに夜のねぐら(バットボックス)を設置し、コウモリさんを地域に呼び寄せて、この蚊を退治してもらおうと試みている国もあるようです。体重が6kgの小型のコウモリ(ヒナコウモリ)でも、一日に食べる餌の量は3kgでおよそ体重の半分、これを蚊で換算すると500匹程度になると言うのです。つなり彼らをうまく使ってやると衛生害虫の駆除に役立つことが期待できます。しかも、コウモリたちが蚊を食べると体内でウイルスは分解されて無害化するともいわれています。現在ワクチンや抗ウイルス薬がないので、生物的防除への期待はさらに高まります。8月のリオデジャネイロオリンピックでは世界中の人々が集まりますが、さらに国際的なウイルス感染の広がりが危惧されています。日本でもこうした生物的防除を行っている衛生管理会社もあるようです。普段は嫌われ者のコウモリですが、地球上の仲間として名誉を回復し、地域にうまく生息してくれるように誘導すべき時がきたようです。地球の生き物はつながって生きているのです。
中南米で「ジカウイルス」の感染者が急増し心配されています。もともとアフリカ、東南・南アジア、オセアニアなどで感染が確認されていましたが、中南米では感染例がなかったといいます。人々の国を越えての移動が盛んになっていることと、中南米の人々のウイルス耐性がなかったことがその要因としてあげられています。症状は軽いが、妊婦が感染すると新生児に障害が生まれる可能性が指摘されています。媒介するのはネッタイシマカやヒトスジシマカといわれています。日本にはネッタイシマカはいませんが、ヒトスジシマカは日本のどこでも棲息する蚊です。蚊の防除法としてにわかに注目を浴びているのが、「生物的防除」です。報道されているように「コウモリ」を使って蚊を退治する方法です。すでに夜のねぐら(バットボックス)を設置し、コウモリさんを地域に呼び寄せて、この蚊を退治してもらおうと試みている国もあるようです。体重が6kgの小型のコウモリ(ヒナコウモリ)でも、一日に食べる餌の量は3kgでおよそ体重の半分、これを蚊で換算すると500匹程度になると言うのです。つなり彼らをうまく使ってやると衛生害虫の駆除に役立つことが期待できます。しかも、コウモリたちが蚊を食べると体内でウイルスは分解されて無害化するともいわれています。現在ワクチンや抗ウイルス薬がないので、生物的防除への期待はさらに高まります。8月のリオデジャネイロオリンピックでは世界中の人々が集まりますが、さらに国際的なウイルス感染の広がりが危惧されています。日本でもこうした生物的防除を行っている衛生管理会社もあるようです。普段は嫌われ者のコウモリですが、地球上の仲間として名誉を回復し、地域にうまく生息してくれるように誘導すべき時がきたようです。地球の生き物はつながって生きているのです。
2016年2月3日水曜日
悪(わる)の本性ついに解明!ピロリ菌と全身疾病
ピロリ菌とは何者なの?~胃がんだけでなく全身の疾病に関与している細菌
胃がんをはじめとする胃粘膜病変を発症することで知られている「ピロリ菌」。酸性度PHが1から2という、超きびしい環境の胃のなかに潜んで生きる細菌です。かつて胃のなかには細菌は棲めないと考えられていました。しかし胃壁のしわにへばりつくようにピロリ菌という細菌が発見され、これが胃がん発症の主要な犯人ではないかと考えられるようになりました。ただ何故がんを誘発するのか、そのメカニズムなど詳しいことはわかっていませんでした。いまでは胃粘膜にピロリ菌が感染すると、細菌表面の「とげ」から胃にむけてある種の病原タンパク質(CagA)が、胃の細胞に注入され、胃細胞のシグナルがかく乱されてがん化が促進されるということがわかっています。そして問題は胃がんに留まらず、心疾患、血液疾患(紫斑病)、神経疾患などの全身病とも関連があることが議論されるようになってきたのです。つまりピロリ菌はこれまで想像されていた以上に、「悪(わる)」の存在であること次々と明らかにされています。京都大学の秋吉一成教授や東京大学の畠山昌則教授らの共同研究による最新の報告では、病原性の本体と考えられるタンパク質(CagA)が、実はずっと胃に留まっているのではなく、胃の細胞から放出されて全身の循環系に入り、輸送されている姿を明らかにしています。一般に細胞が分泌する微小な組織体(小胞)で、細胞から細胞へ運ばれる「エクソソーム」というものがありますが、CagAはそれは内包されて運ばれているというのが新たな発見です。全くぞっとするような話です。しかも「悪」の生物活性を残したまま、全身を駆け巡っているようなのです。そして興味深いのは、ウイルスや寄生虫などの他の微生物感染でもこの「エクソソーム」が輸送に関与していいることもわかってきました。今後研究が進展すれば微生物感染による疾病を防ぐことや、治療することへつながるこれは大きなステップとなる研究成果ではないでしょうか。現在、地球上の人類の半分はピロリ菌に感染しているといわれています。また日本では、ピロリ菌除菌の治療も保険適用となり広く施術されるようになっています。ピロリ菌を原因とする疾病は、あなどれない広がりをもっている様相を示しています。
胃がんをはじめとする胃粘膜病変を発症することで知られている「ピロリ菌」。酸性度PHが1から2という、超きびしい環境の胃のなかに潜んで生きる細菌です。かつて胃のなかには細菌は棲めないと考えられていました。しかし胃壁のしわにへばりつくようにピロリ菌という細菌が発見され、これが胃がん発症の主要な犯人ではないかと考えられるようになりました。ただ何故がんを誘発するのか、そのメカニズムなど詳しいことはわかっていませんでした。いまでは胃粘膜にピロリ菌が感染すると、細菌表面の「とげ」から胃にむけてある種の病原タンパク質(CagA)が、胃の細胞に注入され、胃細胞のシグナルがかく乱されてがん化が促進されるということがわかっています。そして問題は胃がんに留まらず、心疾患、血液疾患(紫斑病)、神経疾患などの全身病とも関連があることが議論されるようになってきたのです。つまりピロリ菌はこれまで想像されていた以上に、「悪(わる)」の存在であること次々と明らかにされています。京都大学の秋吉一成教授や東京大学の畠山昌則教授らの共同研究による最新の報告では、病原性の本体と考えられるタンパク質(CagA)が、実はずっと胃に留まっているのではなく、胃の細胞から放出されて全身の循環系に入り、輸送されている姿を明らかにしています。一般に細胞が分泌する微小な組織体(小胞)で、細胞から細胞へ運ばれる「エクソソーム」というものがありますが、CagAはそれは内包されて運ばれているというのが新たな発見です。全くぞっとするような話です。しかも「悪」の生物活性を残したまま、全身を駆け巡っているようなのです。そして興味深いのは、ウイルスや寄生虫などの他の微生物感染でもこの「エクソソーム」が輸送に関与していいることもわかってきました。今後研究が進展すれば微生物感染による疾病を防ぐことや、治療することへつながるこれは大きなステップとなる研究成果ではないでしょうか。現在、地球上の人類の半分はピロリ菌に感染しているといわれています。また日本では、ピロリ菌除菌の治療も保険適用となり広く施術されるようになっています。ピロリ菌を原因とする疾病は、あなどれない広がりをもっている様相を示しています。
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