~なぜなの!ゾウはがんになりにくい・・その疑問が新たな治療法へと導く~
まだまだ命をめぐる不思議な話はあるようです。誰もが罹患したくないと思う病気として、がんとアルツハイマー病という高齢者にとってはやっかいな相手がいます。このがんとアルツハイマー病の発症についてお互いの関係を調べたところ、なんと「逆相関」するということがわかってきました(報告:2013 米国VA Boston Healthcare System).。350万人登る高齢者の追跡調査が行われましたが、がんに罹患した人は統合失調症やアルツハイマ―病、パーキンソン病になりにくいという意外な結果が報告されています。しかもこれはがんの種類によらないこともわかっています。この結果を受け研究者たちは、がんの存在がアルツハイマー病に対して、何らかの抑制効果を持つのであれば、アルツハイマ―病の新たな治療薬の開発につながるのではと考えはじめています。まだ仮説の段階ですが、がんを促進させる「遺伝子」が、片方では神経細胞を守る働きを持っているのではと考えられています。しかしその証拠もいくつか見えてきたといいます。そしてこれに類似した研究として、動物の「ゾウ」についての研究があります。ゾウは大きい体にも関わらず、がんになる個体が少ないことが知られています。今年発表された研究結果では、その謎の一端が解明されました(2015 JAMA米国医師会雑誌)。遺伝子の分析を行ってみると、ゾウの体には、がんの形成を抑制するタンパク質(p53)を作るための「遺伝子」が38個あり、これはヒトに比べると19倍にも上る数だとわかったのです。つまりゾウには生まれつきがん化する細胞を殺傷する強力なメカニズムが備わっていたのです。実際がんで死亡するゾウは全体の5%に満たないといいます。ゾウの仲間は進化の過程でこうした能力を「遺伝子の改良」で生き延びてきたといえるでしょう。がんやアルツハイマー病を抑制するという知られていた事実や様々な側面を、遺伝子レベルまで深めて分析、研究すると、これまでにない抗がん剤の開発など新たな治療の光が見えてくるのかもしれません。
2015年12月28日月曜日
2015年12月25日金曜日
~おとぎ話のような「植物たち」の会話術!解き明かされる驚異の自己防衛~
地球の生命の研究史を考えるとき、その存在の重要性にくらべて全くフェアな扱いをされてこなかった存在があります。それは地上の緑のカーテン、「植物」です。植物の研究は動物にくらべやや軽んじられてきたのではないかという意見があります。植物が実は、想像以上に様々な「感覚」を持っていたり、また動物にも劣らない「知恵」もあって、周りの同じ仲間や動物と化学物質を通じて「コミュニケーション」をはかっていることがわかってきたのはほんの20年ほど前のことです。微量物質の検出が技術の進歩で可能になったことで、こうした不思議な植物が放出する化学物質の実態が明かされてきました。たとえば「生物間相互作用ネットワーク」と難しい用語で呼ばれている現象があります。キャベツ畑でキャベツの葉に、アオムシ(モンシロチョウの幼虫)がついて食べはじめると、キャベツからはやがてSOS信号となる「かおり物質」が放たれて、この物質にアオムシの天敵となるアオムシコバチが呼びよせられます。このハチはアオムシに寄生してこのキャベツにとっての害虫を駆除してくれるので、キャベツは大きな食害から逃れることができるのです。さらに、もしキャベツが別のコナガの幼虫などから食べらたときは、キャベツからこのコナガの幼虫を食べてくれる天敵バチを誘引する「別のかおり物質」が放出するのです。つまりキャベツはついた虫によって、救ってくれる天敵を呼ぶ「かおり物質」を使い分けて放出しているのです。驚くべき事実といっていいでしょう。。現在の研究では、「かおり物質」は複数の化学物質のブレンドで構成されていて、そのブレンドの割合を変えることでこうした仕組みが出来上がっていることがわかっています。またアブラナ科のシロイヌナズナを用いた研究では、食害を受けた葉から発せられる物質によって、周りのまだ無傷の仲間の葉で、食害防御に関する遺伝子の活性をめるように誘導していることも確かめられています。植物は仲間を守っているのです。植物は「会話する生命体」だったのです。そしてこのかおり物質だけでなく、まだまだベールに隠された能力が植物にはあると考えられています。これまで静かに二酸化炭素を吸収して食物を提供してくれる存在といった認識しかなかった「植物」は、動物を越えて進化した存在として、まだ誰も本当の姿を知らないのかもしれません。
地球の生命の研究史を考えるとき、その存在の重要性にくらべて全くフェアな扱いをされてこなかった存在があります。それは地上の緑のカーテン、「植物」です。植物の研究は動物にくらべやや軽んじられてきたのではないかという意見があります。植物が実は、想像以上に様々な「感覚」を持っていたり、また動物にも劣らない「知恵」もあって、周りの同じ仲間や動物と化学物質を通じて「コミュニケーション」をはかっていることがわかってきたのはほんの20年ほど前のことです。微量物質の検出が技術の進歩で可能になったことで、こうした不思議な植物が放出する化学物質の実態が明かされてきました。たとえば「生物間相互作用ネットワーク」と難しい用語で呼ばれている現象があります。キャベツ畑でキャベツの葉に、アオムシ(モンシロチョウの幼虫)がついて食べはじめると、キャベツからはやがてSOS信号となる「かおり物質」が放たれて、この物質にアオムシの天敵となるアオムシコバチが呼びよせられます。このハチはアオムシに寄生してこのキャベツにとっての害虫を駆除してくれるので、キャベツは大きな食害から逃れることができるのです。さらに、もしキャベツが別のコナガの幼虫などから食べらたときは、キャベツからこのコナガの幼虫を食べてくれる天敵バチを誘引する「別のかおり物質」が放出するのです。つまりキャベツはついた虫によって、救ってくれる天敵を呼ぶ「かおり物質」を使い分けて放出しているのです。驚くべき事実といっていいでしょう。。現在の研究では、「かおり物質」は複数の化学物質のブレンドで構成されていて、そのブレンドの割合を変えることでこうした仕組みが出来上がっていることがわかっています。またアブラナ科のシロイヌナズナを用いた研究では、食害を受けた葉から発せられる物質によって、周りのまだ無傷の仲間の葉で、食害防御に関する遺伝子の活性をめるように誘導していることも確かめられています。植物は仲間を守っているのです。植物は「会話する生命体」だったのです。そしてこのかおり物質だけでなく、まだまだベールに隠された能力が植物にはあると考えられています。これまで静かに二酸化炭素を吸収して食物を提供してくれる存在といった認識しかなかった「植物」は、動物を越えて進化した存在として、まだ誰も本当の姿を知らないのかもしれません。
2015年12月24日木曜日
~スポーツの会に参加すると要介護となる人は必ず減少する!~
健康寿命の延伸のために、課題はどこにあるのか、そのためまずは日本の高齢者を取り巻く社会的な要因を分析し、その生活実態を探ることで明らかにしていこうという野心的な研究が、日本福祉大学の近藤克則教授らによって進められています。北海道から沖縄まで全国の31市町村に居住する65歳以上の高齢者で要介護の認定を受けていない人11万人(回答者)に対する調査が、何年にもわたって続けられています。調査項目を見ると大きく「健康」、「生活」、「社会」、「経済」などの4つの柱建てになっています。例えば健康では自立度、うつ、転倒、口腔ケア、栄養状態、また生活では閉じこもり、趣味、虐待、友人関係など、社会の項目では、地域への参加、ソーシャルキャピタル(社会での信頼関係)、経済の項目では収入、就業、教育歴などが調べ上げられ、高齢者の全体像を多面的にあぶりだそうとしているところがとても興味深いと思います。特にそのなかで、「運動疫学」とよばれる分野、つまり「スポーツ(組織)への参加」と「要介護の認定有無」との関連を検討した報告はいろいろなことを教えてくれます。この調査は愛知県の高齢者1万3千人(回答者)を分析したものですが、市民運動、ボランティア、趣味といった社会参加の項目と要介護になるリスクの関係が分析された結果、一番要介護になるリスクを低めたのは、スポーツの会への参加でした。何にも参加していないグループにくらべて、スポーツの会に参加しているグループは、何とリスクが34%低くなるというものでした。またスポーツ(運動)の回数やスポーツの会(組織)へ所属の有無など詳細を調べたものでは以下のような結果でした。週1回以上運動している人では、スポーツ組織に参加してる人にくらべ参加していない人は3割ほど要介護になりやすい(4年間に)、また週1回未満の方でもこれは同じような傾向を示したといいます。「スポーツの会への参加」がキーワードとして浮かび上がってきたのです。研究者たちは、組織へ参加することで、社会的な交流や支え合いなどがあり、その「心理的な効果」が結果として、要介護発生の抑制へとつながったのではないかと分析しています。地域での高齢者スポーツ組織の設立や拡充など、新たな介護予防対策がここからも見えてきたようです。 参考: 運動疫学研究 2013;15(1):31-35
健康寿命の延伸のために、課題はどこにあるのか、そのためまずは日本の高齢者を取り巻く社会的な要因を分析し、その生活実態を探ることで明らかにしていこうという野心的な研究が、日本福祉大学の近藤克則教授らによって進められています。北海道から沖縄まで全国の31市町村に居住する65歳以上の高齢者で要介護の認定を受けていない人11万人(回答者)に対する調査が、何年にもわたって続けられています。調査項目を見ると大きく「健康」、「生活」、「社会」、「経済」などの4つの柱建てになっています。例えば健康では自立度、うつ、転倒、口腔ケア、栄養状態、また生活では閉じこもり、趣味、虐待、友人関係など、社会の項目では、地域への参加、ソーシャルキャピタル(社会での信頼関係)、経済の項目では収入、就業、教育歴などが調べ上げられ、高齢者の全体像を多面的にあぶりだそうとしているところがとても興味深いと思います。特にそのなかで、「運動疫学」とよばれる分野、つまり「スポーツ(組織)への参加」と「要介護の認定有無」との関連を検討した報告はいろいろなことを教えてくれます。この調査は愛知県の高齢者1万3千人(回答者)を分析したものですが、市民運動、ボランティア、趣味といった社会参加の項目と要介護になるリスクの関係が分析された結果、一番要介護になるリスクを低めたのは、スポーツの会への参加でした。何にも参加していないグループにくらべて、スポーツの会に参加しているグループは、何とリスクが34%低くなるというものでした。またスポーツ(運動)の回数やスポーツの会(組織)へ所属の有無など詳細を調べたものでは以下のような結果でした。週1回以上運動している人では、スポーツ組織に参加してる人にくらべ参加していない人は3割ほど要介護になりやすい(4年間に)、また週1回未満の方でもこれは同じような傾向を示したといいます。「スポーツの会への参加」がキーワードとして浮かび上がってきたのです。研究者たちは、組織へ参加することで、社会的な交流や支え合いなどがあり、その「心理的な効果」が結果として、要介護発生の抑制へとつながったのではないかと分析しています。地域での高齢者スポーツ組織の設立や拡充など、新たな介護予防対策がここからも見えてきたようです。 参考: 運動疫学研究 2013;15(1):31-35
2015年12月21日月曜日
~そうだったのか!老化は直線的に機能が低下するというのはウソ~
「老化」について人々はどんなイメージを持っているでしょうか。それは運動能力や体力が徐々に低下していく、「右肩下がりのグラフ」のようなものではないでしょうか。こうした直線的に健康度が下がっていくという老化のモデルはいまや否定されつつあります。もちろん重い生活習慣病など疾病をもつ人は、健康寿命に届かずに死亡すると考えられますが、こうした特定の病気にならずに自然に老いる人は、実は晩年まで体の機能を相当部分維持していて、亡くなる直前に急激に機能が落ちていくという、「終末期低下型」と呼ばれる老化の推移をたどるといいます。これは海外や国内での研究から明らかになってきた新しい老化のイメージです。もう20年ほど前に、米国での100歳老人などを対象にした研究を取材したことがありますが、多くの老人が亡くなる直前まで体の機能が十分維持されている実像が明らかになりました。加齢とともに介護の程度がどんどん高まっていくという考え方は間違っていることが示され、その後の米国の高齢者対策に少なからず影響を及ぼしました。さらにこれまで老化現象そのものは「不可逆的に進行」するものと考えられてきましたが、体力や筋力の低下に対して、筋トレなど適切な方法でトレーニングを行うと、実際には身体機能が著しく落ちた人でも、改善する(不可逆的でなく機能が戻ることがある)ことは十分可能ということもわかってきたのです。これは高齢者にとって大きな朗報ではないでしょうか。高齢者は年々できることが減っていくものという通念は間違った考え方だったのです。高齢者の増加で医療費が限りなく増えていくといった懸念が持たれていますが、この新しい老化のイメージに切り替えれば、なにかもっと違うアイデアも生まれてくるのではないかと思います。いまこそ、皆がこの老化の真の姿を知る必要があります。この老化モデルを理解してもらうためには、親しまれる言葉で啓発する必要もあるようです。「ピンピンコロリ」という言葉はあまり好みません。筆者は、とりあえず「なだらか老化論」、「元気な老化モデル」あるいは「アクティブ老化」とかはどうかと考えています。
参考:「健康寿命の延ばし方」大渕修一著など
「老化」について人々はどんなイメージを持っているでしょうか。それは運動能力や体力が徐々に低下していく、「右肩下がりのグラフ」のようなものではないでしょうか。こうした直線的に健康度が下がっていくという老化のモデルはいまや否定されつつあります。もちろん重い生活習慣病など疾病をもつ人は、健康寿命に届かずに死亡すると考えられますが、こうした特定の病気にならずに自然に老いる人は、実は晩年まで体の機能を相当部分維持していて、亡くなる直前に急激に機能が落ちていくという、「終末期低下型」と呼ばれる老化の推移をたどるといいます。これは海外や国内での研究から明らかになってきた新しい老化のイメージです。もう20年ほど前に、米国での100歳老人などを対象にした研究を取材したことがありますが、多くの老人が亡くなる直前まで体の機能が十分維持されている実像が明らかになりました。加齢とともに介護の程度がどんどん高まっていくという考え方は間違っていることが示され、その後の米国の高齢者対策に少なからず影響を及ぼしました。さらにこれまで老化現象そのものは「不可逆的に進行」するものと考えられてきましたが、体力や筋力の低下に対して、筋トレなど適切な方法でトレーニングを行うと、実際には身体機能が著しく落ちた人でも、改善する(不可逆的でなく機能が戻ることがある)ことは十分可能ということもわかってきたのです。これは高齢者にとって大きな朗報ではないでしょうか。高齢者は年々できることが減っていくものという通念は間違った考え方だったのです。高齢者の増加で医療費が限りなく増えていくといった懸念が持たれていますが、この新しい老化のイメージに切り替えれば、なにかもっと違うアイデアも生まれてくるのではないかと思います。いまこそ、皆がこの老化の真の姿を知る必要があります。この老化モデルを理解してもらうためには、親しまれる言葉で啓発する必要もあるようです。「ピンピンコロリ」という言葉はあまり好みません。筆者は、とりあえず「なだらか老化論」、「元気な老化モデル」あるいは「アクティブ老化」とかはどうかと考えています。
参考:「健康寿命の延ばし方」大渕修一著など
2015年12月17日木曜日
~どんな身体活動であっても、複数の部位のがんに予防効果がある~
日常生活で体をしっかり動かしている(身体活動量が多い)人は、がんになるリスクが低いことが知られています。またがんを発症して治療を行った患者(がん生存者)の場合でも、定期的な運動を行うと、がん再発のリスクが下がるという研究成果も最近出されました。(2012年米国対がん協会「がん生存者のための栄養と運動のガイドライン」第4版)。国内の研究では、「大腸がん」の発生率について、全国の中高年男女6万5千人を追跡した厚生労働省の調査があります。それによると、体をよく動かしている活動量最大群(筋肉労働や激しいスポーツ行っている)の人と、そこまでの運動をしていなくても、日々の生活で1日3時間以上歩いたり、立ったりしたりしている人(身体活動量上位群)の場合は、「結腸がん」発症リスクで、40%~30%も低下が見られたとされています。ただしこの調査では、不思議なことに、女性ではこの傾向はあまり見られず、また「直腸がん」だけで見ると、リスク低減効果は認められませんでした。どのがんにも効果ありというわけではなかったのですが、体を日常的にしっかり動かすことの重要性がうかがえるデータです。他にも「乳がん」では、米国の疫学調査が知られていますが、身体活動が高い女性は、身体活動が低い女性に比べておよそ12%ほど乳がん発症リスクが下がるという報告があります。その身体活動の中身ですが、酸素を効率よく取り込む能力である「有酸素性能力」と関係することも解明が進み、有酸素性能力が高いほどがん発症のリスクは下がる傾向であることがわかってきました。また身体活動が増加するとがん発症が抑えられるメカニズムについては、まだよくわかっていないのですが、肥満の予防、免疫力の増強、腸管ぜん動の促進、プロスタグランジン(がんの増殖や転移に関連する生理活性物質)の低下などが深く関わっているのではないかと現在は推察されています。2007年世界がん研究基金米国がん研究機構の報告書には、どんな身体活動であっても複数のがん(大腸がん、乳がん、子宮体がん)に予防的であり、静的な生活は複数のがんの原因になると明記しています。無理なく身体活動量を上げる生活習慣がこれからの「がん予防」のキーワードとなりそうです。
参考:「健康づくりNo.451、2015」(健康・体力づくり事業財団)
日常生活で体をしっかり動かしている(身体活動量が多い)人は、がんになるリスクが低いことが知られています。またがんを発症して治療を行った患者(がん生存者)の場合でも、定期的な運動を行うと、がん再発のリスクが下がるという研究成果も最近出されました。(2012年米国対がん協会「がん生存者のための栄養と運動のガイドライン」第4版)。国内の研究では、「大腸がん」の発生率について、全国の中高年男女6万5千人を追跡した厚生労働省の調査があります。それによると、体をよく動かしている活動量最大群(筋肉労働や激しいスポーツ行っている)の人と、そこまでの運動をしていなくても、日々の生活で1日3時間以上歩いたり、立ったりしたりしている人(身体活動量上位群)の場合は、「結腸がん」発症リスクで、40%~30%も低下が見られたとされています。ただしこの調査では、不思議なことに、女性ではこの傾向はあまり見られず、また「直腸がん」だけで見ると、リスク低減効果は認められませんでした。どのがんにも効果ありというわけではなかったのですが、体を日常的にしっかり動かすことの重要性がうかがえるデータです。他にも「乳がん」では、米国の疫学調査が知られていますが、身体活動が高い女性は、身体活動が低い女性に比べておよそ12%ほど乳がん発症リスクが下がるという報告があります。その身体活動の中身ですが、酸素を効率よく取り込む能力である「有酸素性能力」と関係することも解明が進み、有酸素性能力が高いほどがん発症のリスクは下がる傾向であることがわかってきました。また身体活動が増加するとがん発症が抑えられるメカニズムについては、まだよくわかっていないのですが、肥満の予防、免疫力の増強、腸管ぜん動の促進、プロスタグランジン(がんの増殖や転移に関連する生理活性物質)の低下などが深く関わっているのではないかと現在は推察されています。2007年世界がん研究基金米国がん研究機構の報告書には、どんな身体活動であっても複数のがん(大腸がん、乳がん、子宮体がん)に予防的であり、静的な生活は複数のがんの原因になると明記しています。無理なく身体活動量を上げる生活習慣がこれからの「がん予防」のキーワードとなりそうです。
参考:「健康づくりNo.451、2015」(健康・体力づくり事業財団)
2015年12月14日月曜日
~「フレイル予防」に向けて、「ウォーキング法」をもっと研究開発すべき!~
日頃の運動(スポーツ)だけでなく、通勤での徒歩や家事などのその人の生活全体の活動量を合わせたものを「身体活動量」と呼ぶようになりました。自分の身体活動量はどのくらいあるのか、そして十分に体を動かしているのかなどを知ることは、中高年の健康維持や老化防止を考えるとき、非常に需要なファクターであると認識されています。特別な疾病のない人で、年齢別にどのくらいの運動量が望ましいかは、国の指針がすでに示されています。厚生労働省が作成した「健康づくりのための身体活動基準 2013」<アクティブガイド>です。ここでは、30分以上の運動を週2回行いましょうとか、歩く時間をあと10分増やしましょうとか具体的に運動量の増やし方を提言しています。これはメタボや心疾患などについて、運動することで予防効果があると実証された、世界のすべての論文をもとに検討されたものであり、いわゆる「エビデンス(科学的根拠)」に基づいた指針となっています。さらにこの身体活動基準では、身体活動量とがん、ロコモティブシンドローム、認知症のリスク低減効果についても検討を加えています。では高齢期の健康を考えるとき、いま最も大切な「フレイル」(身体的フレイル)についてはどうでしょう。例えば後期高齢者について身体活動はどのように考えるべきかとなると、まだまだエビデンスが足らないようです。よく知られているように、内閣府の調査では、70歳以上の人が行なっている運動・スポーツ種目は「ウォーキング」が56.4%と大多数を占めています。そこでこのウォーキングを習慣的に行う支援が効果的だろうと多くの専門家は考えています。しかしどのような「ウォーキング法」はいいのかはまだ議論が進んでいません。世界ではウォーキングや自転車を用いた身体活動量の向上を検討した報告などがありますが、目標をどう設定して継続させるかなどの議論でまだ終始している段階のようです。ウォーキングの「質」や「歩き方の方法」について、もっともっと専門家の議論や研究が必要かと考えます。スポーツ医学、老年医学などの研究者には、例えば速歩(アクティブウォーキング)をどうすれば適切に行えるのか、継続できるのかなど市民目線の研究をもっともっと実施してほしいものです。
日頃の運動(スポーツ)だけでなく、通勤での徒歩や家事などのその人の生活全体の活動量を合わせたものを「身体活動量」と呼ぶようになりました。自分の身体活動量はどのくらいあるのか、そして十分に体を動かしているのかなどを知ることは、中高年の健康維持や老化防止を考えるとき、非常に需要なファクターであると認識されています。特別な疾病のない人で、年齢別にどのくらいの運動量が望ましいかは、国の指針がすでに示されています。厚生労働省が作成した「健康づくりのための身体活動基準 2013」<アクティブガイド>です。ここでは、30分以上の運動を週2回行いましょうとか、歩く時間をあと10分増やしましょうとか具体的に運動量の増やし方を提言しています。これはメタボや心疾患などについて、運動することで予防効果があると実証された、世界のすべての論文をもとに検討されたものであり、いわゆる「エビデンス(科学的根拠)」に基づいた指針となっています。さらにこの身体活動基準では、身体活動量とがん、ロコモティブシンドローム、認知症のリスク低減効果についても検討を加えています。では高齢期の健康を考えるとき、いま最も大切な「フレイル」(身体的フレイル)についてはどうでしょう。例えば後期高齢者について身体活動はどのように考えるべきかとなると、まだまだエビデンスが足らないようです。よく知られているように、内閣府の調査では、70歳以上の人が行なっている運動・スポーツ種目は「ウォーキング」が56.4%と大多数を占めています。そこでこのウォーキングを習慣的に行う支援が効果的だろうと多くの専門家は考えています。しかしどのような「ウォーキング法」はいいのかはまだ議論が進んでいません。世界ではウォーキングや自転車を用いた身体活動量の向上を検討した報告などがありますが、目標をどう設定して継続させるかなどの議論でまだ終始している段階のようです。ウォーキングの「質」や「歩き方の方法」について、もっともっと専門家の議論や研究が必要かと考えます。スポーツ医学、老年医学などの研究者には、例えば速歩(アクティブウォーキング)をどうすれば適切に行えるのか、継続できるのかなど市民目線の研究をもっともっと実施してほしいものです。
2015年12月11日金曜日
~生物多様性が保たれるのは、頂点に立つ「捕食者」のおかげ~
自然の生態系を考えるとき、「キーストーン種」というという特別な生き物の存在が大事だとわかってきました。キーストーン種とは相対的に数(生物量)は少ないものの、その生態系にきわめて大きな影響を与える生物種のことを呼び、食物連鎖で頂点に立つ「捕食者」を指す場合が多いと考えられます。生物量として多い優占種のような場合はキーストーン種とは呼びません。この概念をはじめに提唱したのは、アメリカの海洋生物学者のロバート・T・ペインです。彼は古生物の研究が物足りなくなって、海の生物の研究へと転換し独創的なフィールドワークを行いました。西海岸ワシントン州オリンピック半島のある海岸の岩場で、その調査ははじまりました。1963年ころのことです。彼は磯にいるフジツボや巻貝など無脊椎動物がどういう関係を保って棲息しているのかを明らかにしたいと思っていました。まず潮間帯の岩場を2か所選び、ひとつの岩場から頂点に立つ捕食者、黄色の「ヒトデ」を片っ端から引っ剥がして離れた海へ放り投げました。この岩場でヒトデは王様で、ヒトデを食べる生き物はいません。一方の岩場はそのままに残しました。ヒトデを取り除いた岩場では、まずフジツボが縄張りを広げましたが、1年もするとイガイ(カリフォルニアイガイ)が急速に繁殖してその天下を取りました。イガイは獰猛な存在となり、岩はすべてイガイの殻で覆われるようになったといいます。そしてはじめ棲息していた生物種の15種の内、7種はいなくなっいたのです。一方ヒトデを残した岩場では、生物種は変わらず豊かな磯がそのまま残りました。ペインはこれを見て環境がひとつの種に独占されないようにしているのは、ヒトデのような頂点に立つ「捕食者」であると考えたのです。生物多様性を維持する鍵となっているのは、意外にもその場の生態系の頂点に立つ「捕食者」であることがこうして明らかにされました。オオカミがいなくなった日本の森林でニホンジカが異常繁殖するという状況も、こうした原理をもっと深く理解することが必要だと考えられます。
自然の生態系を考えるとき、「キーストーン種」というという特別な生き物の存在が大事だとわかってきました。キーストーン種とは相対的に数(生物量)は少ないものの、その生態系にきわめて大きな影響を与える生物種のことを呼び、食物連鎖で頂点に立つ「捕食者」を指す場合が多いと考えられます。生物量として多い優占種のような場合はキーストーン種とは呼びません。この概念をはじめに提唱したのは、アメリカの海洋生物学者のロバート・T・ペインです。彼は古生物の研究が物足りなくなって、海の生物の研究へと転換し独創的なフィールドワークを行いました。西海岸ワシントン州オリンピック半島のある海岸の岩場で、その調査ははじまりました。1963年ころのことです。彼は磯にいるフジツボや巻貝など無脊椎動物がどういう関係を保って棲息しているのかを明らかにしたいと思っていました。まず潮間帯の岩場を2か所選び、ひとつの岩場から頂点に立つ捕食者、黄色の「ヒトデ」を片っ端から引っ剥がして離れた海へ放り投げました。この岩場でヒトデは王様で、ヒトデを食べる生き物はいません。一方の岩場はそのままに残しました。ヒトデを取り除いた岩場では、まずフジツボが縄張りを広げましたが、1年もするとイガイ(カリフォルニアイガイ)が急速に繁殖してその天下を取りました。イガイは獰猛な存在となり、岩はすべてイガイの殻で覆われるようになったといいます。そしてはじめ棲息していた生物種の15種の内、7種はいなくなっいたのです。一方ヒトデを残した岩場では、生物種は変わらず豊かな磯がそのまま残りました。ペインはこれを見て環境がひとつの種に独占されないようにしているのは、ヒトデのような頂点に立つ「捕食者」であると考えたのです。生物多様性を維持する鍵となっているのは、意外にもその場の生態系の頂点に立つ「捕食者」であることがこうして明らかにされました。オオカミがいなくなった日本の森林でニホンジカが異常繁殖するという状況も、こうした原理をもっと深く理解することが必要だと考えられます。
2015年12月9日水曜日
~「老化とは死にやすくなること」から老化の定義がはじまった~
ほとんどの地球上の生物は、時間の流れにより成長と成熟を迎え、そして老いて死を迎えます。ただし単細胞生物で、分裂で増えることができる生き物、あるいは細胞融合して生き返るような例外はありますが。では生物にとって老化とは何か、その古典的な定義が成立したのは1960年代といわれています。医療や文化が発展し、人を取り巻く環境が変わった結果、「老化とは死にやすくなること」という定義が生まれました。人間の場合、天寿を全うする人は少なく、多くの人は何らかの病気で亡くなります。それはがん、脳卒中、心筋こうそく、肺炎などの疾患が老化により罹患率が急速に上昇するからだと考えるのです。しかしこれより100年以上も前に、老化を深く考察した医師がいました。それはカナダの臨床医ウイリアム・オスラー(1849-1919)です。彼が残した言葉はいまでも語り継がれて、その後の医学にも大きな影響を与えました。よく知られているのは「人は血管とともに老化する」という言葉です。オスラ―が生きた時代はまだまだ感染症などが最大の医療課題であったころであり、いまでこそ心血管系の病気が健康長寿上の大きな問題となっていますが、当時こうした血管(あるいは動脈硬化)と寿命の関係に、いち早く注目していたのは医学者として先見の明があったといえるでしょう。残された他の言葉にも、興味深いものがあります。オスラ―は「たいていの人は剣によるよりも、飲み過ぎ、食い過ぎによって殺される」と述べているのです。これはまさに飽食の私たち日本人に向けられた言葉のようにずしりと響きます。生活習慣病という概念、動脈硬化の複雑なメカニズム、頸動脈エコー検査などの近代的な医療技術、知識がそろっていなかった時代でも、老化現象の本質を見抜いていた臨床医がいたのはすごいことだと思います。そしていま、再び老化という生命現象に、遺伝子、生体物質、免疫あるいは社会科学、進化学といった多彩な科学的なアプローチがはじまり、その本質が捉え直されようとしています。 参考:「老化という生存戦略」(近藤祥司、日本評論社)
ほとんどの地球上の生物は、時間の流れにより成長と成熟を迎え、そして老いて死を迎えます。ただし単細胞生物で、分裂で増えることができる生き物、あるいは細胞融合して生き返るような例外はありますが。では生物にとって老化とは何か、その古典的な定義が成立したのは1960年代といわれています。医療や文化が発展し、人を取り巻く環境が変わった結果、「老化とは死にやすくなること」という定義が生まれました。人間の場合、天寿を全うする人は少なく、多くの人は何らかの病気で亡くなります。それはがん、脳卒中、心筋こうそく、肺炎などの疾患が老化により罹患率が急速に上昇するからだと考えるのです。しかしこれより100年以上も前に、老化を深く考察した医師がいました。それはカナダの臨床医ウイリアム・オスラー(1849-1919)です。彼が残した言葉はいまでも語り継がれて、その後の医学にも大きな影響を与えました。よく知られているのは「人は血管とともに老化する」という言葉です。オスラ―が生きた時代はまだまだ感染症などが最大の医療課題であったころであり、いまでこそ心血管系の病気が健康長寿上の大きな問題となっていますが、当時こうした血管(あるいは動脈硬化)と寿命の関係に、いち早く注目していたのは医学者として先見の明があったといえるでしょう。残された他の言葉にも、興味深いものがあります。オスラ―は「たいていの人は剣によるよりも、飲み過ぎ、食い過ぎによって殺される」と述べているのです。これはまさに飽食の私たち日本人に向けられた言葉のようにずしりと響きます。生活習慣病という概念、動脈硬化の複雑なメカニズム、頸動脈エコー検査などの近代的な医療技術、知識がそろっていなかった時代でも、老化現象の本質を見抜いていた臨床医がいたのはすごいことだと思います。そしていま、再び老化という生命現象に、遺伝子、生体物質、免疫あるいは社会科学、進化学といった多彩な科学的なアプローチがはじまり、その本質が捉え直されようとしています。 参考:「老化という生存戦略」(近藤祥司、日本評論社)
2015年12月1日火曜日
~「骨」を育てるには、重力を感じ地面を強く踏みしめよう!~
もし骨を丈夫にしたいなら、水泳のような重力をあまり感じない水平方向の運動ではなく、地面を強く踏みしめたり、ジャンプしたりするような垂直方向の運動が適しているといわれています。ロケットで飛び出した宇宙飛行士が、長く無重量の宇宙空間で過ごすと、次第に骨や筋肉が痩せてきて細くなっていくことが知られています。これは、いかに地上での生活が重力を体で感じて暮らしていているのか、また重力が体作りの上で大切な役目をもっているかを示しています。骨では、垂直方向の力が加わると、「骨細胞」を取り囲んでいる細胞液に流れが生まれます。そうすると「骨細胞」は流れを感じて、骨を作る「骨芽細胞」に新たな骨を作るように指令を出していることなどがわかってきました。ウォーキングやバレーボールのような運動、また階段の上り下りもそういう理由で骨作りに有効です。筋肉や骨には、「メカノセンサー(重力センサー)」と呼ばれるまるでロボット工学のような、重力を感じる細胞があると考えられています。骨細胞もそうしたセンサーといえるでしょう。骨や筋肉にいかに重力を感じさせるかが、骨や筋肉強化のポイントだったのです。片足立ちを日々行うと、足への重力負担が運動時に大きくなります。足の骨が強化され、またバランス感覚も磨かれるため、転倒予防につながるといったデータもあります。運動や生活活動を行うとき、地面を強く踏みしめるという「骨への刺激」をキーワードで考える習慣をつけると、ちょとしたことで骨強化の運動になるかもしれません。骨や筋肉もそうですが、いくら栄養をきちっと摂っても、適切な刺激がないかぎり決して望むような丈夫で強い組織にはならないのです。これは生き物の宿命とでもいうのでしょうか、本来生物の体はそういうメカニズムで成り立っているのです。
もし骨を丈夫にしたいなら、水泳のような重力をあまり感じない水平方向の運動ではなく、地面を強く踏みしめたり、ジャンプしたりするような垂直方向の運動が適しているといわれています。ロケットで飛び出した宇宙飛行士が、長く無重量の宇宙空間で過ごすと、次第に骨や筋肉が痩せてきて細くなっていくことが知られています。これは、いかに地上での生活が重力を体で感じて暮らしていているのか、また重力が体作りの上で大切な役目をもっているかを示しています。骨では、垂直方向の力が加わると、「骨細胞」を取り囲んでいる細胞液に流れが生まれます。そうすると「骨細胞」は流れを感じて、骨を作る「骨芽細胞」に新たな骨を作るように指令を出していることなどがわかってきました。ウォーキングやバレーボールのような運動、また階段の上り下りもそういう理由で骨作りに有効です。筋肉や骨には、「メカノセンサー(重力センサー)」と呼ばれるまるでロボット工学のような、重力を感じる細胞があると考えられています。骨細胞もそうしたセンサーといえるでしょう。骨や筋肉にいかに重力を感じさせるかが、骨や筋肉強化のポイントだったのです。片足立ちを日々行うと、足への重力負担が運動時に大きくなります。足の骨が強化され、またバランス感覚も磨かれるため、転倒予防につながるといったデータもあります。運動や生活活動を行うとき、地面を強く踏みしめるという「骨への刺激」をキーワードで考える習慣をつけると、ちょとしたことで骨強化の運動になるかもしれません。骨や筋肉もそうですが、いくら栄養をきちっと摂っても、適切な刺激がないかぎり決して望むような丈夫で強い組織にはならないのです。これは生き物の宿命とでもいうのでしょうか、本来生物の体はそういうメカニズムで成り立っているのです。
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