~「老化とは死にやすくなること」から老化の定義がはじまった~
ほとんどの地球上の生物は、時間の流れにより成長と成熟を迎え、そして老いて死を迎えます。ただし単細胞生物で、分裂で増えることができる生き物、あるいは細胞融合して生き返るような例外はありますが。では生物にとって老化とは何か、その古典的な定義が成立したのは1960年代といわれています。医療や文化が発展し、人を取り巻く環境が変わった結果、「老化とは死にやすくなること」という定義が生まれました。人間の場合、天寿を全うする人は少なく、多くの人は何らかの病気で亡くなります。それはがん、脳卒中、心筋こうそく、肺炎などの疾患が老化により罹患率が急速に上昇するからだと考えるのです。しかしこれより100年以上も前に、老化を深く考察した医師がいました。それはカナダの臨床医ウイリアム・オスラー(1849-1919)です。彼が残した言葉はいまでも語り継がれて、その後の医学にも大きな影響を与えました。よく知られているのは「人は血管とともに老化する」という言葉です。オスラ―が生きた時代はまだまだ感染症などが最大の医療課題であったころであり、いまでこそ心血管系の病気が健康長寿上の大きな問題となっていますが、当時こうした血管(あるいは動脈硬化)と寿命の関係に、いち早く注目していたのは医学者として先見の明があったといえるでしょう。残された他の言葉にも、興味深いものがあります。オスラ―は「たいていの人は剣によるよりも、飲み過ぎ、食い過ぎによって殺される」と述べているのです。これはまさに飽食の私たち日本人に向けられた言葉のようにずしりと響きます。生活習慣病という概念、動脈硬化の複雑なメカニズム、頸動脈エコー検査などの近代的な医療技術、知識がそろっていなかった時代でも、老化現象の本質を見抜いていた臨床医がいたのはすごいことだと思います。そしていま、再び老化という生命現象に、遺伝子、生体物質、免疫あるいは社会科学、進化学といった多彩な科学的なアプローチがはじまり、その本質が捉え直されようとしています。 参考:「老化という生存戦略」(近藤祥司、日本評論社)
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