2015年12月11日金曜日

~生物多様性が保たれるのは、頂点に立つ「捕食者」のおかげ~

自然の生態系を考えるとき、「キーストーン種」というという特別な生き物の存在が大事だとわかってきました。キーストーン種とは相対的に数(生物量)は少ないものの、その生態系にきわめて大きな影響を与える生物種のことを呼び、食物連鎖で頂点に立つ「捕食者」を指す場合が多いと考えられます。生物量として多い優占種のような場合はキーストーン種とは呼びません。この概念をはじめに提唱したのは、アメリカの海洋生物学者のロバート・T・ペインです。彼は古生物の研究が物足りなくなって、海の生物の研究へと転換し独創的なフィールドワークを行いました。西海岸ワシントン州オリンピック半島のある海岸の岩場で、その調査ははじまりました。1963年ころのことです。彼は磯にいるフジツボや巻貝など無脊椎動物がどういう関係を保って棲息しているのかを明らかにしたいと思っていました。まず潮間帯の岩場を2か所選び、ひとつの岩場から頂点に立つ捕食者、黄色の「ヒトデ」を片っ端から引っ剥がして離れた海へ放り投げました。この岩場でヒトデは王様で、ヒトデを食べる生き物はいません。一方の岩場はそのままに残しました。ヒトデを取り除いた岩場では、まずフジツボが縄張りを広げましたが、1年もするとイガイ(カリフォルニアイガイ)が急速に繁殖してその天下を取りました。イガイは獰猛な存在となり、岩はすべてイガイの殻で覆われるようになったといいます。そしてはじめ棲息していた生物種の15種の内、7種はいなくなっいたのです。一方ヒトデを残した岩場では、生物種は変わらず豊かな磯がそのまま残りました。ペインはこれを見て環境がひとつの種に独占されないようにしているのは、ヒトデのような頂点に立つ「捕食者」であると考えたのです。生物多様性を維持する鍵となっているのは、意外にもその場の生態系の頂点に立つ「捕食者」であることがこうして明らかにされました。オオカミがいなくなった日本の森林でニホンジカが異常繁殖するという状況も、こうした原理をもっと深く理解することが必要だと考えられます。


2 件のコメント:

  1. いつも興味深い記事、ありがとうございます。
    昨夏旅した知床でもエゾシカの増加がオオカミ絶滅と関係があると聞き、人の罪深さを考えました。そんな時にリンクの映像をみました。

    イエローストーンのオオカミ
    https://gunosy.com/articles/RXnBq

    ヒトはキーストーン種とは真逆の、介在しないことでしか生態系を守れない存在に簡単になってしまうことを自認し、真摯に生物からもっと学ばなければならないのかもしれません。

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  2. コメントありがとうございます。イエローストーンでのオオカミ導入はこれまで成功したとの報道が多いと思いますが、マイナス面はあまり伝わってきません。今後数百年という単位で考えていかねばならない事柄でしょうか。

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