~社会的存在であってこそ”健康長寿”な人である~
高齢者の体の変化を「フレイル」ということばで捉える研究が現在進んでいると紹介しました。健康寿命の延伸をめざし、これまで「メタボ」、「ロコモ」、あるいは「脳の活性化」といった内科や整形外科等からのアプローチがありましたが、フレイルが強く関心を寄せている課題のひとつは他の考え方と際立って異なっています。それは社会的な存在として健康を捉えるという、「社会的フレイル」の考え方です。このキーワードはいわば医学の範疇を越えていて、フレイルという概念を最も特徴づけています。それはこれまでの高齢者の観察から、地域社会や家族との関係が希薄化したり、あるいは家に引きこもったりすることが、寝たきりの症状やからだの虚弱化をさらに大きく促すことが経験上、明らかになってきたことがあげられます。高齢者が、転ぶことが怖いので外出しない、家の中でずっと時間を過ごしている、趣味や楽しみもなくなったといった生活状況になると、あったいう間に身体的な能力が低下し(身体的フレイル)、さらには認知機能も低下(認知症など)しやすくなるというのです。こうした状況を数多く医師たちは見つめてきました。この「閉じこもり」、「他者との交流」、「趣味などの生きがい」といった問題に正面切って対峙しているのが。新たな概念「フレイル」です。すべてははじまったばかりの分野ですので、どう科学的に捉えて、どう分析し、またどう介入(個人へ、社会環境へ)すればいいのか、まだまだ診断法や分析する理論はありません。またはたして何らかの介入で社会的なフレイルは改善できるのか、それも未知数です。数多くの大きな課題が目の前にあるようです。しかし老化を生き物としての自然な経緯と考えて、医学だけでなく全人的なアプローチを試みるという医療が、いまはじまったといえるでしょう。
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