2016年12月21日水曜日

トナカイが・・キリンが・・急激に消えてゆく

悲しいことに地球上で、“絶滅危惧種”が増加しています。北極圏ではトナカイが痩せて餓死する個体が続出しています。イギリスやノルウェーの研究者たちからは、トナカイの体重が1994年から2010年の16年間でおよそ12%もの減少があったという報告がありました。その理由として、温暖化で気温が上昇、雪が雨に変わると草地が冬に氷で覆われることになり、餌が摂れなくなっているのではと想像しています。またフィンランドなどによる調査では、ロシアのある地域で約6万頭のトナカイが死んだと伝えています。個体数でみると27年間で40%も減少したと考えられ、国際自然保護連合は2016年のレッドリストで、ついにトナカイを「絶滅危惧種2類」に指定しました。それでなくても壊れやすい極地の自然、こうした生物の変動は次に生態系で何を引き起こすのか、よくわかっていません。
アフリカでも、この30年間で同じように個体数が40%減少したという生き物がいます。あのキリンです。こちらも今年、新たなレッドリストで絶滅危惧種となりました。現在のキリンは、推定で約10万頭かそれ以下となってしまったといいます。30年前には16万頭だったのです。トナカイと同じ絶滅の危険が増大している絶滅危惧種2類です。こちらは開発進むアフリカで、農地の拡大、鉱業開発などで生息地が破壊されたり、また密猟なども影響していると考えられています。大自然は残るアフリカでももう大型の生物は、息苦しくなったということでしょうか。
かつて日本列島に暮らしていたニホンオオカミやニホンカワウソなど、自然を開発していくことで失われてしまった生物種は、列島の大地によみがえることはありません。一度失われた遺伝子は自然で復活することはないのです。冷徹に見ると、悠久の地球の歴史で、生き物たちの絶滅は繰り返されてきました。いま問題なのは、この絶滅の速度が、何百倍も何千倍も速いスピードで急速に変化していることなのです。

2016年11月25日金曜日

宇宙は「鉄」で満たされている・・なぜだ?

地球は「鉄の惑星」だといいます。誕生したころは、ドロドロに解けた数千度の物体だった地球は、その後、物質の移動や分離がはじまり、現在のような核、マントル、地殻という三層の構造を持つ星に進化していきました。現在の地球の核には鉄とニッケルが大量に存在しています。マントルや地殻にも鉄は普遍的に存在します。地球全体で見てみても、その総重量のおよそ34パーセントが鉄だということになります。この鉄の存在の特殊性は、実は地球だけに限った話ではなく、宇宙全体で見渡してみても、元素としての「鉄」の存在は非常に際立っていて存在量は特異的に大きいことがわかっています。50億年ほど前、宇宙にガス状の雲が誕生し(これにはダークマターが関与しているという噂があります)、「核融合反応」により水素やヘリウム以外の元素が次々に誕生しました。陽子と中性子の結合が進んだわ、けですが酸素、炭素、ケイ素、マグネシウムと進み「鉄」で終了したのです。これには核融合で原子の総重量は増えますが、熱の放出で陽子や中性子の「重さ」が徐々に軽くなるという「質量欠損」のメカニズムが働いています。原子核を構成する「陽子」と「中性子」は、鉄が最も軽くそれだけ安定しているので鉄に物資が変化して反応が終わったとされています。鉄では陽子、中性子が軽いため結合が強く働くとされ、他の元素にはない安定が保たれているのです。これは第一世代の元素誕生とも呼ばれいますが、原子番号で鉄より大きなものは、あの「超新星爆発」でしか生じない元素なのです。例えばスズ、銀、金、モリブデン、ウラン、セシウムなど重い元素は、宇宙のどこかで起こった超新星爆発で運ばれていま地球の存在していると考えられています。これだけですごいロマンのあるお話ですね。鉄が元素として特別な存在であることは、宇宙や生物の進化を考えるときにも大切な視点と考えられています。



 

2016年11月10日木曜日

進化論で説明できない生物の擬態・・ツノゼミ類

 中南米に棲息する昆虫、ユカタンビワハゴロモという「ツノゼミ」をご存じでしょうか。かつて「生命潮流」(ライアル・ワトソン1979年)という著書とテレビ番組でも紹介されたことがあります。ツノゼミ類はカメムシ目に属する昆虫で、世界で3200種、日本でも16種が記録されているというほど何処にでもいるような昆虫の仲間ですが、熱帯地域でその容姿は高度に進化し、不思議な擬態の名手として知られています。昆虫の擬態には眼玉模様や枯れ葉に似せた姿に化けるなどが知られていますが、このビワハゴロモを代表とする、ツノゼミの擬態は特別です。この頭の突起部分がなぜこのような形状になっているのか、機能や効能はまったくわかっていませんが、
                                                                                                    ユカタンビワハゴロモ
   一見して驚くのはどうやら、天敵である鳥たちが嫌う「ワニ」の姿をしているようにも見えるところです。偶然にしてもこの突起部はものすごくよく出来ていて、ワニの眼と大きな口に見える部分には、歯もならんでいます。いったいこのツノゼミは誰にそれを教えてもらったのでしょうか。もしこれがワニの擬態だとすればそれはダーウィン進化論を揺るがすような事実なので、現代の生物学では合理的な説明ができません。少しずつ変異を重ねて、生きるのに有利な種が生き残ったという淘汰説では、こうした偶然を説明することは出来ないのです。もし説明するとしたら、小鳥たちが嫌った形状の昆虫が生き残ったとしか説明できません。偶然が積み重なったという解釈でしょうか。
 野鳥たちは、きっとこの姿を見て襲う気力が失せてしまうものと思われます。このほか突き出した不思議なコブを持つ形状の角のツノゼミもいて、熱帯域のツノゼミはもはや何を擬態しているかもわからないくらい高度化し、キテレツな姿をしているのです。
危険を感じると、急に体を反り返し、ヘビの頭そっくりに変身する幼虫アオムシもいます。それはみごとにへびそっくりに見えます。これも天敵の小鳥たちが、ヘビを嫌うということを知っていたのでしょうか。誰がそれを教えたのでしょうか。偶然の産物とするにはあまりにもよく出来たお話です。
私たちの生物への理解がまだまだ未熟な部分があるといことなのでしょうか。大自然のしくみはまだ解明されていないことがいっぱいありそうです。
 



                                          

2016年11月7日月曜日

木星の水衛星には生命が存在するという期待が高まった

地球を水惑星と呼びますが、この太陽系に「水衛星」がおそらくいくつか?あることがわかってきました。例えばそれは木星の惑星で、月よりやや小さな天体「エウロパ」です。木星には、ガリレオが見つけたガリレオ惑星と呼ばれる惑星があります。イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストです。実際は木星には67個もの惑星があります。木星の第2衛星であるエウロパは、NASAの探査機でその姿がかなり詳しく撮影されています。その姿はどの他の衛星とも違うものでした。不思議なのは、クレーターらしきものが見当たらないことと、表面に土色の線がいっぱい走っていることです。これまでの研究者の議論からは、おそらく数キロに及ぶ氷=水の氷がその表面を覆っており、その下には広大な地下の「海」があるのではということになっています。また宇宙望遠鏡ハッブルの観測では、このエウロパが火山のように何かを噴き出す、間欠泉(プルーム)のような現象を起こしている様子が観察されています。ただしこの現象が本当に水が噴き出したものか、未だ論争があるようですが。エウロパが存在するところは、太陽から遠く離れ、とても温度が低い環境にあり、冷え切った衛星と考えられますが、巨大惑星である木星の引力の影響でエウロパには大きなな力が働くといいます。その力が氷の溝を作ったり、水噴射を引き起こしたりしていると考えられているのです。この間欠泉のような水噴射が本当だとすると、地下の海は、表面を覆う分厚い氷に完全に閉ざされているのではなく、水と凍りはある程度攪拌され、循環もしている可能性があります。さらに最近、湖のような場所も見つかりました。地球とは異なりますが、この太陽系で水が大量にある星があることがほぼ明らかになってきたのです。さてさてそうなると、水が存在し、衛星の内部から熱エネルギーも供給されるとなると、「生命」が存在してもおかしくないというのが宇宙生物学者の見解です。期待をこめた意見でしょうが。地下の海にはクラゲや魚が泳いでいるという想像もあります。NASAでは2020年代に、この水の噴出地域に接近し、物質を採取して生命の痕跡も探ろうという「エウロパ・クリッパー」計画がはじまっています。木星の衛星に生命の営みが見つかれば、はたしてどういうことになるのでしょうか。われわれはどこから来たのか、という問いがその時解かれるのでしょうか。 写真資料:NASA

2016年10月30日日曜日

生理的?病的?その現象はどっちなの

 老化を医学、科学で解明することをめざす「老年医学」。これまで一般にはあまり知られていなかった医学の専門分野ですが、ますます注目されるようになっています。老いとは何なのか、加齢とともに心身の変化がどのように起こっていくのか、様々な研究が進んでいます。健康寿命を延ばすために、健やかな老いを迎える社会を築くために、老年医学はますます必要度を増しています。
 例えば自然に体力が衰え、からだの機能も低下していくことを「生理的な老化」と呼びますが、これに多くの場合、高齢者特有の疾病が加わるのでこの「病的な老化」と自然な老化を混同し同一視しやすいということがあります。白髪や皮膚のしみや体重に占める水分量は低下しますが、それといわゆる「脱水現象」とは区別されます。前者は生理的、後者は病的とされます。老眼や難聴は生理的老化で、白内障は病的変化となります。失禁やロコモティブシンドローム、骨粗しょう症、嚥下障害なども「病的」変化の範疇に入るものとされています。このあたりをあまり区別はしていないようです。だれでもが迎える「老化現象」と、誰にでも起こるわけではない「病気」とが区別されていません。老年医学はこうしたことも明らかにしてきました。
 老化を逆方向に戻すのはむつかしとしても、病的な老化は、正しく対処して治す、あるいは改善すべきと思われます。またここに社会的な問題や、精神心理的な課題も加わり、さらに様相は複雑化します。自分に起こっている現象が、どれにあたるのか、そうしたことも教えてくれる窓口も必要です。高齢者の総合機能評価とか老年症候群の症状を正しく伝えるのは誰が対応すべきなのでしょうか。決してマイナス部分だけでなく、明るく対処できるはずの老化や加齢変化。いまこそ老年医学の知恵や知識を人々に還元し、大いに活用すべき時が来たと思います。

参考:「高齢社会の教科書」東京大学高齢社会総合研究機構

2016年10月1日土曜日

人はなぜ高血圧になるかまだ解明されていない~加齢の不思議

加齢とともに多くの人は「高血圧」になります。学会が定めるガイドラインでその数をカウントするとわが国の患者数はおよそ4300万人に上るといいます。高血圧は、自覚することがなく進行し、やがて動脈硬化を引き起こし、脳こうそくや心筋こうそくを発症する、死に至る疾患といえるでしょう。
これほど日常でもっとも高頻度に見られる疾患といえる高血圧ですが、その大部分を占める「本態性(ほんたいせい)高血圧」は、その原因が実ははっきりしていないといいます。現在、もし原因を説明するとしたら、ひとつは遺伝的要素(因子)でありもうひとつは生活環境因子だといいます。遺伝的要素とは神経系や、腎臓、血管系などが正常でなくあり、血圧調整がうまくいかなくなるということだといいます。生活環境因子とは、暮らしのなかで、食塩の過剰摂取、喫煙、アルコール、運動不足、ストレスなどが発症に寄与しているという考え方です。これらふたつはどちらも重要な因子であり、結論としては、いわゆる「生活習慣病」の仲間ということになっています。
この加齢にともなう血圧上昇への対策として大きな注目があつまっているのは「運動療法」です。
アメリカの心臓病学会が18歳以上の健康な成人5223人について、精密なデータ分析を行なったところ、有酸素運動やレジスタンス運動による「降圧効果」が明白になりました(2013年発表)。
その要点はおよそ以下のようとされています。
    *運動頻度は週2日でも効果が表れる
    *また一回の運動時間は30分未満では効果がなく30分から45分の間がのぞましい
    *運動強度は中強度が一番効果が表れる。低強度では効果が表れない。
これらはまとめると「中強度の運動を週に2日以上、一回30分以上」ということになります。また高血圧者は、運動の効果が表れやすいこともわかってきたという。原因はわからないという「高血圧」。とりあえず私たちができる予防・改善法は体を適切に動かすということになるのでしょうか。





2016年9月26日月曜日

世界に発信できるか!フレイル克服をめざす日本の社会 

「フレイル」という老化に対する新たな考え方では、健康長寿の人生を送るためには3つの要素が必要とされています。それは栄養(食・口腔機能)、身体活動(運動など)、そして社会参加(就労、余暇活動、ボランティア)です。そしてこれらはどれが欠けても長寿な人生とはならないというのです。この新しい考え方で、これまでの意見と違っているのは「口腔機能」と「社会参加」ではないでしょうか。口腔機能とは、噛む力や飲みこむ力、また話すことも唾液の供給力なども含む広い能力を指しているようです。歯や口を清潔にしその機能を維持することは、食べる働きだけでなくからだ全身のフレイル予防(虚弱予防)に結びつくこととはこれまでだれも意識することはなかったと思います。極論すれば、口腔ケアは寝たきり予防につながるいうことです。
そしてもうひとつのユニークな考え方は、社会への参加を維持するということです。ひとりでスポーツを続けている高齢者群と、グループに所属して運動をしている高齢者群とではグループで行っている群のほうが、健康寿命が長いという研究があります。社会への参加やつながりが健康とどれほど関係するかはまだまだ解明されてはいませんが、定年で会社から退職したり、社会との接点が薄くなると、急に老ける人がいますが、これはもともと人は社会的な生き物であり、その基本を失ってしまうことがどれだけ大きいことかを示しているのかもしれません。こうした理論から生まれる新たな対策や課題は、まず口腔機能維持への中高齢期からの継続的な介入です。歯や口への関心を高め、みなが対策をとれば、寝たきり高齢者はぐっと減少するかもしれません。歯科医には
もっと頑張ってほしいものです。もうひとつは社会参加の誘導策。つながりが薄い都会生活で、今後どう高齢者が、楽しく生きがいも感じられるような交流組織を作っていくことができるか、これは
一番むつかしい課題のように思います。健康寿命日本一の山梨県では「無尽」とよばれるお金を出し合って旅行や飲み会を行う互助会のような風習があり、それがお年寄りの健康寿命の延伸につながっているのではないかという研究があります。こうした知恵をいまこそ日本全体に広げ、フレイル克服社会を構築していかなければならない段階にいま到達しているのだと思います。そしてこれはいまや高齢社会トップランナーの日本が世界に提言すべきことだといえるでしょう。










2016年9月23日金曜日

あなたにとって「サクセスフル・エイジング」とは?

高齢者の研究ははじめ、加齢によって生じる生理的機能の変化とは何か、あるいは生活習慣病への対策を探りたいという方向で研究がはじまったと考えられます。やがて「長寿革命」で先進国ではある程度の人の長寿が達成できると、長生きできるがただ無為に長生きするだけとか、あるいは寝たきりの老人が増える一方という現実に遭遇することとなります。そして長寿は量から質つまり、
QOL「生活の質」を高めることが最大の課題といわれるようになったきたのです。このことは高齢者のマイナス部分に注目するのではなく、ポジティブな部分にも関心がもたれるようになります。実際現実の社会を見てみると、高齢者の大半を占める「健常な老化群」は、高齢期を迎えても健康で自立していて、また社会にも十分社会に貢献できる能力を有している人々であり、これまでの生産活動から退き、体力気力も減衰し、社会から離脱していくという高齢期のイメージをみごとに覆していると言わざるを得ないのです。日本では、60歳以上に働きたいですかと聞いた質問には71.9%の人が働きたいと答えているといいます。欧米の価値観では、自立と生産が重要とされるといいますが、この自立と生産をもし高齢期でも維持し、生涯継続することができれば、それがすばらしい長寿といえるのではないかという考え方が欧米で広がりました。サクセスフル・エイジングという理念です。サクセスフル・エイジングとはより良く生きること、自分らしく生きることということでしょうか。この考え方にもこれまで多くの議論が闘われてきました。いまは「中年期までに形成した行動パターンや生活、パーソナリティを継続し、なおかつ変化に適応対処している老年期」という定義が、あるべき理想ではないかという「継続理論」が提唱されています。老年期が過去に例がないほど長くなった現在、理想の老い方についての熱い議論はまだまだ続くようです。
参考:「高齢社会の教科書」(東京大学・高齢社会総合研究機構編)




2016年8月23日火曜日

宇宙の95%はまだそれが何かわからない存在!

そもそもそれを考え出すと、もうどうにも思考の泥沼に入っていくのですが、いったい宇宙はなにからできているのか?という質問に、現代宇宙論ではわれわれが知っている「物質」というのは、およそ5%くらいの存在で、実はこの宇宙を占めるものとしてあの「ダークマター」が26%、そしてしそれが何かさえわかっていない「ダークエネルギー」が69%だというのです。つまり最先端の宇宙観測や計算により、宇宙の成り立ちとしてでどうしてもこうした「未知のもの」を想定しないと理屈が合わないというのが、現在の到達点となっています。ダークエネルギーだけでも十分不思議ですが、これはさておき、ダークマターはその存在がほぼ確定的だというのが研究者の一致したところのようで、いまはその正体(何で構成されているのか)や存在(どのように分布しているのか)の解明が精力的に進んでいるようです。まもなく正体はあばかれるのではという期待も高まっているようです。ダークマターは言葉どおり「見えない」存在なのですが、それは原子核の周りに電子がまわるような「物質」と似た構造をもっているのではないか、さらには銀河系にはその構造の沿うような「ダークディスク」が存在し、二重円盤となって銀河構造を支えているはずだ・・、などこれまでの宇宙論では考えられなかった新たな奇想天外ともいうべき理論が生まれつつあるようです。この状況を見て、賢明なる諸兄はおわかりかと思いますが、21世紀の人類の知の到達点は、この宇宙さえ理解できるようになったとおごっていても、実は全体の「5%」の世界しか見てこなかったというこになるということなのです。知の地平線を広げるのが、研究者の喜びであり、営みであると答えておられた日本のノーベル賞受賞者がいましたが、宇宙の探究ははじまったばかりで、まだまだ先は長いということなのでしょうか。
                          


2016年8月17日水曜日

地球で長生きする法・長寿の秘訣はスローライフ?

 米国科学誌サイエンスが伝えるところでは、グルーンランド近海に棲むサメの一種(ニシオンデンザメ)が、400年以上生きている可能性がわかり、これはおそらく脊椎動物では最も長寿なのではないかと報告しています。このサメは大人になると4から5メートルになりますが、冷たい海に適応しているせいか、その成長速度は極端に遅く、年に1センチ未満だろうと考えられています。また泳ぐ速度も遅く、時速で1キロほどの遊泳能力と観察されています。深海でひとりスローライフを送っている魚ということになるのでしょう。生き物が長寿かどうかは、その成長のスピードと大いに関係がある?と考えていいのでしょうか。
 ニュージランドで見つかっている「ムカシトカゲ」というイグワナに似た生き物がいます。トカゲの名がついていますが、現存するトカゲ類とはかなり違った生き物で実に風変わりな特徴を持っています。歯が顎の骨から直接生えているとか頭頂部はに第3の眼という「頭頂眼」を持ち(網膜や水晶体がある)、骨格も2億年以上前の生き物の特徴をとどめているという生きた化石のような輩です。このムカシトカゲも相当なスローライフで、生殖可能な年齢になるには10年から20年、また数年かかって卵を作り、孵化させることができるといったことがわかっています。111歳のオスと80歳を超えるメスが交尾し、オスは初めて親になったという記録があるくらいです。また体内の赤血球にあるヘモグロビンもほかの爬虫類とは異なっていて、低温で働くことができるといいます。現存のトカゲ類なら絶対に生き延びられないような、摂氏5度といった気温でも活動できるといいます。これはおそらく非常に寒い気候の時代に進化適応してきた生き物だからでしょうか。このムカシトカゲも生き物長寿番付には必ず出てきますが、おそらくは100歳は優に超えて生き延びると考えられています。スローライフを求めて?きたサメとムカシトカゲ。どこか共通の生き残り戦術があるようです。                                                  PHOTO:    http://mil-animales.blogspot.jp







2016年7月31日日曜日

進化の証言者・魚類と両生類の中間のような生き物がいる

「ポリプテルス」という不思議な魚を見たことがありますか。生きた化石とよばれ、いまから4億年前の「デボン紀」に誕生し、あまり姿を変えずに今日まで生き延びてきた「淡水魚類」です。主にザイール、スーダン、セネガルといった熱帯アフリカ地域に生息しています。ハイギョやシーラカンスに近い種類とも考えられていますが、その進化の位置づけはよくわかっていないようです。からだは魚類ですが、顔の部分を見るとカエルのような雰囲気があります。そして鰭(ひれ)には筋肉が発達してしていて、水中でも鰭でまるで歩くように移動します。つまり、このポリプテルスは、魚類から両生類へと進化する段階を明確に残した生き物と考えられているのです。浮袋は二つにわかれていて、鰓呼吸とともに、肺のような空気呼吸ができるからだとなっています。扁平な頭の上部に並んだくりくりの眼は、たしかに魚類の眼ではなく両生類を感じさせるものがあります。4億年前とは気が遠くなるような昔ですが、あの究極の巨大化をみせた大型魚「ダンクルオルテウス」が現われた時代です。そういう生き物が現代に姿を残し、命をつないでいるということだけでもまるで奇跡のようです。(玉川高島屋「生命40億年の旅」展示会で見ることができます)

画像:ウィキペディア「ポリプテルス」より引用





2016年7月6日水曜日

大陸の移動や宇宙の変動が「地球生物の進化」を促した!?

近年の地球史と生命進化の研究成果にはまったく驚かされることばかりです。地球の大陸が離合集散を繰り返してきたことは、だれもが知っている事実ですが、こうした古大陸が裂けることや、海を移動してまた陸地同志が衝突することが、実は生物の劇的な進化、あるいは多様化に本質的に大きな役割を担っているということが明らかになってきたのです。ました。東工大特命教授の丸山茂徳先生らが提唱している「進化の統一理論」と呼ばれている注目の学説です。この大陸大移動のほかに、実は大銀河の運動による「宇宙の変動」も地球の環境に強大な影響を及ぼしているといいます。この宇宙の変動理論を先に述べると、最近論議されている例の恐竜絶滅の問題があります。ご存知のように、これまで恐竜たちは巨大な隕石衝突で絶滅の道を歩んだとされてきました。しかし実は隕石衝突の前から少しづつ恐竜の種の絶滅がはじまっていることが最近明らかにされ、これは海底の堆積物の調査から、銀河系と暗黒星雲との衝突が背景にあったのではと議論が活発になされています。進化というものを宇宙スケールで考えるというこれまでにない発想です。そして大陸の変動理論では、もっと興味深い事実が指摘されています。大陸が裂けるような場所では、過去ある時期に、放射線元素を多く含む膨大な量のマグマが放出され、生物たちは被爆により、局所的に大量絶滅があったことがわかってきました。そしてこうしたことが引き金となり、「進化の加速」もそうした特異な地点で起こったのではというのが、統一理論の考えかたです。人類誕生の現場と考えられている、アフリカの大地溝帯ではこうした放射性マグマが大量に放出されたと考えられています、霊長類が飛躍的進化を遂げたタイミング、これはすなわち「脳の容積」が不連続に巨大化した時期ともいえるのですが、いまから180年前、70~80万年前、そして20年前の3回あることが知られています。この不連続線は3回存在します。地質学の調査から調べられた、マントルプルームの上昇で陸地が割れて爆発的な火活動があり地溝帯が大変動した時期とこの進化の3回の不連続ポイントがぴたりと符合するというのです。驚くべきことではないでしょうか。このことは、霊長類の不連続な大進化が、環境への膨大な量の放射線の放出による遺伝子の突然変異があるという説明を導きます。全球凍結など地球史の数々大イベントの全貌がが明らかになりつつありますが、地球の生き物たちはこうした壮大なスケールの変動を受け、たくましく進化を続けてきたのです。いまそうした進化の全貌が次第に明らかになってきました。

2016年6月23日木曜日

伊豆では地球プレートの動きが感じられる!

実に身近に地球のドラマを感じることができる場所があるものです。例えば「伊豆半島ジオパーク」で指定されている「ジオポイント」はその代表といっていいでしょう。よく知られていますように、伊豆半島は温泉の宝庫で、城ケ崎海岸や河津七滝といった絶景、そして洞窟やスコリア丘(プリン型火山)など不思議な地形が各所に存在します。これらはフィリッピン海プレートの動きではるか南にあった海底火山が北上、本州にぶち当たり半島となったことからはじまりました。60万年前のことです。その後20万年ほどは噴火があちこちで起こり、天城山など半島の骨格となる山系が誕生しました。そのあとに続いたのが、大室山に代表される小さな火山群の活動でした。城ケ崎海岸などの柱状岩石はこのときの熔岩が固まってできたもので、伊豆高原はこの熔岩でできた台地なのだそうです。この動きはいまも続いており、伊豆半島は本州を押し続けています。伊豆半島はが海底火山からはじまっている証拠は、各地で見つかる「枕状溶岩」や火山灰が層をなす地層です。これらが伊豆半島の海岸の景観美を形成しているのです。
この大地の大変動の先輩格にあたるのが、丹沢山系だといいます。伊豆半島より古い時代に同様にプレートにのった大地が本州に衝突、長い時間押され続けた結果いまの山脈となったのです。地質学の知識では、水分を多く含んだプレートがどんどん沈み込むところでは、地下100kmを超す深度となると、マントルがマグマとなり、それは地上めがけて上昇すると考えられています。日本列島に存在する火山群や休火山は、多くはこうしたメカニズムで誕生したものなのです。大地は流転し、大変動するもの。観光で訪れるようなところが、どのように生まれ、またどのように動いていくのか、これまで考えてもみなかったことですが、地球学(地質学)はそれを明らかにしています。ジオパーク活動はそれらを学ぶ素晴らしい素材を提供してくれています。




2016年6月15日水曜日

地球は宇宙とともに進化してきたことがわかってきた!

地球史のこれまでの研究がいま大きな転換期を迎えているようです。例えば、地球上の海がすべて凍結したという「全球凍結」というドラスチックな変化がなぜ起こったのか、地球スケールだけで考える方法ではなかなか説明ができませんでした。しかし視点をもっと広げて、宇宙の運動や星々の軌道などから考えるとまったく新しい原因がみえてきました。7億年前、天の川銀河に別の銀河が接近し、衝突が起こると、でスターバーストという星や宇宙線の大量発生があり、それらが地球に注がれてることで大気に変化おこり、急速に地球は冷却化されたという考えかたです。こうした考えかたは、あのカンブリア紀における生物の大進化なども宇宙の大運動で説明できるようになってきました。生命進化の歴史は地球の問題として考えるのではなく、すくなくとも太陽系や隣の惑星系、銀河などとの関係から論じようという、なんとも壮大なスケールの学説といえます。銀河と銀河の衝突という劇的なイベントが起これば、ちっぽけな惑星、地球など大変な影響をうけるということは想像にかたくはありません。
生命進化の動力は何かという謎の追究では、仮説として「天然原子炉」という興味深い発見があります。フランスの研究者が、1972年アフリカのガボン共和国で異常な同位体比をもつウラン鉱石を見つけました。この地域はいまでは「オクロの天然原子炉」とういう名で世界に知られています。調査から、ここで過去に(18億年前ですが)核の連鎖反応が起こったことを示しているという結果が報告されました。自然に、原野で核反応が起こるということは本当にあるのか、いまでも異論は数多くあるようです。なかには過去に滅んだ文明があったのではないかという説さえあります。しかしいまでは特異な地形で実際に核連鎖反応がおこったのでないかと考える研究者が多く、そしてこれは現代社会の核廃棄物の処理問題を解決する大きなヒントとなるのではという議論にまで発展しています。そして何より興味深いのは、この地域周辺では生命進化が他の地域より促されていて、新たな生命体の化石が見つかっていることです。地球の進化にも、宇宙のリズムにもまだまだ人知を超えた力やメカニズムが働いているのかもしれません。



2016年5月26日木曜日

日本の近代化を支えた信長的な無宗教観

16世紀、遠くポルトガルから日本にやってきた宣教師ルイス・フロイスは多くの戦国武将や将軍と出会い、交流しその様子を記録しています。なかでも信長へは畏敬と敬愛の念をいだいていたことがわかっていますが、信長の宗教観について以下のような記述があります。「彼は神や仏の一切の礼拝、尊崇、すべての異教的な占卜や迷信的な慣習を軽蔑した。(中略)すべての偶像を見下げて霊魂の不滅や来世の賞罰などはないとした。」当時ルイスはこうした信長の考え方に驚いたようです。ただ信長は神仏を単に蔑視したのではなく、時には神にお願いをしたり、利用したりもしています。きわめて現世主義というか、現実しか興味がなく、また信じないという精神構造は、現在の日本人にも通じる宗教観といえるでしょうか。おそらく現在の地球上で最も無宗教なのは、中国などの社会主義国とかではなく、この日本ではないかと思います。こうした精神のルーツはすでに信長の時代に生まれ、その後の江戸、明治、戦後の発展を通じてそれは民衆のなかに貫通していて、実は日本の発展を支えてきたように思います。日本では既成の宗教が経済や社会の阻害要因となったことはなかったのではないでしょうか。ただし、昭和の一時期、天皇や神道の名のもとに戦争を賛美し、破滅への道に猛進したという「国家神道」という暗い官製宗教の存在があるのは事実です。世界の歴史を振り返ると、宗教は、人々の暴走をコントロールしたり、豊かな土着の文化を醸成したり、またフロイスのような命を捧げるという純粋な使命と行動力を生んできました。現代のような宗教の名で自爆テロを行うというような狂気の行動規範は、いつごろ生まれたものなのでしょう。宗教に熱狂する人々や、暮らしのすべてが宗教に規制されてしまったような生活を見るにつれ、宗教が大事なのはわかりますが、あの信長のようにもう少し現実を変える発想、どうすれば現世を豊かにできるかという着想がなぜそこに育たないのか、そしてわたしたちは何ができるのか、といつも思ってしまいます。


2016年5月6日金曜日

認知症を予防する食事?日本食の医学解明を急げ!

世界では毎年およそ770万人(推定数)が認知症を発症しているといわれています。なぜこんなに多くに発症がみられるのか、人々の生活習慣や、血圧、血糖値などのからだの数値と何か関係があるのでしょうか、そうした「リスク」を探る研究も盛んに行われています。一番関心を持たれているのは、食事との関係、普段の食習慣ではないでしょうか。結論から先に言うと医学的には、認知症発症のどの段階においても「特定の栄養素」の補充を推奨するような証拠は無い・・というのが現在の医学界の正式見解だそうです。ただし基礎医学の研究分野では、複数の栄養素(リン脂質、脂肪酸、ビタミンE,C、Bなど)の補給で脳シナプスの活動を高めるということがあきらかにされています。専門家たちが好ましいと期待しているのは、野菜を多く摂る習慣とか、週に1回以上の魚の摂取といった食事です。これらはコホート研究で有意に認知症のリスクを抑えることがわかってきました。また地中海式食事で知られている、オリーブオイルや豆、乳製品、ワインを摂るといった食事作法は、MCI(軽度認知症)から認知症への変化を減少させたという報告もあるそうです。そして日本食については、大豆や海藻類を多く摂取できること、さらに乳製品も摂って米飯の量が比較的少ない人については、認知症発症のリスクが低いという研究報告が出されています。つまり結論としては、食のバランスということでしょうか。日本食については、その医学的な価値について大きなプロジェクトとして解明していこうという潮流があると聞きましたが、日本食のみならず世界の民族食についてその価値をもっともっと科学や医学によって解明する再評価が待たれます。日本食が世界で人気となったいま、その価値をおいしさだけでなく疾病予防の食としての価値を、医学、栄養、料理、疫学などをフル動員して国家的政策としてもっとしっかり行なっていくべきと考えていますが、いかがでしょうか。これこそ日本の成長戦略の柱のひとつとすべきかと思います。






2016年5月4日水曜日

金髪だった!?縄文人はどこから列島に来たのか?

縄文人が列島に移住してきたのは、いまから1万6,500年前というからそれほど古い話ではありません。この縄文人とよばれる人々がどこから来た人々なのかという議論が現在あります。最近の研究では現在の日本人はこの縄文人の遺伝子を3割ほど残していて、遺伝子で見ると明らかに大陸や半島、また東南アジアの人々とは異なる種族になるといいます。つまり日本の周辺のどの人々とも似ていないという謎がそこにあるのです。この縄文人は、人類の大移動史のなかで東アジア型と東南アジア型の大きなふたつのアジア人の潮流が分かれるまえ、もっと古いタイプの種族に近いことが最近わかってきました。ある説では縄文人はまだ新たな環境に適応していない種族だったので金髪を持っていたかもしれないといいます。北方から来たのか、南方から来たのかそれはまだわかっていません。狩猟と採集の暮らしをしていた縄文人は、戦いを好まない平和的な暮らしを営んでいたとされていますが、それは水や土地をめぐって争いが絶えなかったと考えられている弥生人と対照的な暮らしといえるでしょう。性格が温和で、和を持って尊しとするような日本人の基層にある心根は、ひょっとするとこの縄文人の性格を色濃く受け継いでいるのではないでしょうか。イランあたりからチベットを経由したのか、インド洋沿いに南から日本列島に辿りついたかはまだ論争がありますがいずれにしても、ユーラシア大陸横断という長い旅をを勇猛果敢に東へ移動してきた縄文人型の人類は、アジアの果て日本列島にたどり着きました。アジアではチベットやインド洋のアンダマン諸島の住民、国内ではアイヌや琉球人には縄文人の形質が濃く残っているとされていますが、こうした痕跡を留めているのかもしれません。解明が進んだ背景には、遺跡に残された人類の遺骨から、歯を取り出し、内部に閉じ込められた遺伝子DNAを解析する技術が発展したことがあります。日本の縄文人の遺伝子も詳しく調べることができるようなってきました。アフリカを出て中央アジアから大移動を敢行し、生き残った誇り高い種族ともいえる縄文人に、もっと高い評価と注目を注いでもいいのではないでしょうか。



2016年5月2日月曜日

生命体は宇宙空間を普通に飛び交っているようだ!

21世紀になり、地球生命が火星で誕生したのではという説が多く提唱されています。また「微生物」が宇宙空間を移動している可能性を示す発見や実験での検証も盛んに行われています。火星起源の隕石をスライスして「磁気マッピング」という手法で調べてみると、その内部はなんと1500万年にわたり、摂氏40度以上には加熱された形跡がないということがわかったといいます。これは微生物のような生命体が岩石に閉じ込められて火星から地球に運ばれてくる可能性を示しています。またはじめに情報を複製する能力を持ったとされる「RNA」は、水中ではうまく形づ作られず、その形成には「ホウ素」が必要と考えられていますが、火星からの隕石にはそのホウ素が含有していることが確認されています。またRNAの構成要素である「リボース」が形成されるためには「酸化モリブデン」の存在が必須とされていますが、この酸化モリブデンも初期の地球には存在せず、火星には存在した可能性が高いともいわれています。こうした「合成生物学」の実験かとその進展から、生まれたばかりの火星のほうが、RNAやDNAを遺伝情報とする現在の生命メカニズムが生まれるための条件が地球より、整っていたとする説が出されているわけです。火星にはかつて大規模に水が存在し、気温もいまより温かかったということも明らかにされています。専門家は、物質循環や生命が利用できるエネルギー(酸化・還元)の存在といった観点からも、この火星起源説を確かめようとしています。またアメリカの美人理論物理学者のリサ・ランドールは天の川に収まった「ダークマター」が彗星をかく乱し、恐竜を絶滅させた地球への巨大隕石の衝突の原因となっているという大胆な仮説を最近提唱しました。私たちは孤独な存在なのか?どこから来たのか?宇宙に生命の「種」が存在し、彗星や隕石となってこの宇宙空間を飛び交っているという説が、真実味を帯びるようになってきました。  

2016年3月22日火曜日

飢餓の冬の教訓~健康は胎内からはじまる~

これは人類に生命の営みの不思議を強く感じさせる歴史的な事件となりました。時は1944年9月。オランダの西部は、ナチスドイツに占領され完全封鎖されたため、深刻な食糧難に陥りました。1945年5月5日の解放の日までに2万人の餓死者が出たといわれています。食糧の配給は一人一日500kcalまで下がっていき、妊娠期間中の女性に深刻な影響を及ぼしていた。体重は低下し、多くの胎児が死亡したと考えられています。しかし正常な出産も数万件あったといいます。新生児はやや低体重であったようですが、健康なからだであったようです。この飢餓の経験は、一世代をかけてその影響が現われました。当時の新生児が中年となっていた1970年代、米国の大学研究者が彼らの健康調査を実施した。結果は驚くべきものでした。妊娠6カ月までに飢餓を経験した母親から生まれた赤ちゃんは、成人するとその8割が肥満になっていました。そして肥満になりやすいだけでなく、心臓病、糖尿病、精神病も多発していることも見出されました。遺伝学的には、胎児の時期に低栄養下にさらされると倹約遺伝子が働いて少ない栄養でもからだを保てるような仕組みが働き、それが成人とともに肥満にとつながると考えられています。「子宮効果」という言葉さえあります。そしてもっと驚くべきは、こうした胎児期に飢餓経験した人の子供にもその影響は残っていくのです。つまり祖父世代がどんな健康状態であったかが、孫世代にまで影響を及ぼすといまでは考えられています。これは現在、ダイエットに熱心なあまり、低栄養状態に陥りやすい若い女性から生まれてくる赤ちゃんは立派な肥満の素質をもって生まれてくるという教訓をもたらしてくれているのです。





2016年3月8日火曜日

そうだ!「歩く速度」を考えよう

~歩行速度を自分で測定し、身体機能の状態を知る~

 自分の体の状態というのは案外わかっていないことがあります。それは例えば、日常生活で普段歩いている「スピード」です。足腰の老化に注目する、ロコモティブシンドロームでは、青信号で道路を渡り切れないということが、診断基準の項目のひとつとして取り上げられています。誰かと一緒に歩いているときに、ついていくのが大変と感じたり、街中の雑踏の中で歩くのがつらいと思うようなことがあると、身体機能の低下の恐れがあると専門医たちは警告しています。歩く速度にいま関心が寄せられています。それは歩行速度が要介護につながる体力の低下を測る最も身近な目安と考えられるようになってきたからです。しかし日常生活で歩行速度を測る機会はなかなかありません。5メートル歩くのに男性で4.4秒以上、女性で5秒以上かかるようになると「老化」のサインといわれています。こうしたこともあまり知識として浸透していない事実かと思われます。
 ある研究(札幌医科大学・古名丈人教授)で、高齢者を歩行速度で「速く歩く」、「やや速い」、「やや遅い」、「「遅く歩く」の4つのグループに分類、この方々の4年後の健康状態を調べてものがあります。そうすると「要介護」になった方の割合は、遅く歩く人で35%であったのが速く歩ける人の群では5%であったといいます。これは歩く速度が落ちている人は、7倍もの要介護のリスクがあるという結果です。これらの事実が歩行速度が、要介護の「予測因子」としてとても重要なファクターと考えられている理由のひとつなのです。
 今後は、なんらかの工夫をして血圧とか握力などを測定するのと同様に、日々の歩行速度を自分でチェックすることが、介護予防や健康寿命の延伸にとって大事なことになりと考えられています。活動量計などを使えば、歩行の速度は測れますが、機械を使用せずに簡単でだれでも測定できる方法をいまこそ開発してほしいものです。
   <参考資料:大渕修一「健康寿命の延ばし方」>




2016年2月23日火曜日

未来の医療・“先制医療”はもう目の前に来ている!

医療の劇的な転換期、“先制医療”は夢の医療なのか?~

 医療のこれまでを振り返ると、医師たちは人々が何か体の異常を訴えてきたときはじめてそれに対応してきました。また私たちも健康なときに予防的に医者を訪ねるという人はほとんでいなかったと思います。認知症やがん、生活習慣病といった現在人を悩ます病気の解明が、どんどん進んだ結果、病気になるまでの経緯(プロセス)が明らかになるにつれ、この常識がいま変わろうとしています。
 例えばがんは、一個のがん細胞が生まれてから相当な長い時間をかけて成長するものが多いのですが、特定の遺伝子あるいは遺伝子の組み合わせがそのがんを誘発することも知られています。また認知症では脳内にアミロイドベータが蓄積するのに数10年単位の時間がかかっていることが明らかになっています。こうした遺伝子による発病の確立が診断できるようになったり、また発病の指標である「バイオマーカー」により、その人がこの先どれだけ病気に近づいているかなどが診断できるようになってきました。こうした背景で登場してきたのが先制医療という新たな医療の展開です。
 ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが「予防的」に乳房を全摘出したニュースを記憶しておられる方は多いと思いますが、これは遺伝子診断をもとにした、乳がんと卵巣がんを予防する先制医療の試みの例といえるものです。こうした先手を打つ予防医療はがん以外でも、心血管系の病気、肥満や糖尿病といったメタボリックシンドロームによる病気、そして精神疾患まで多くの病気で検討が加えられるようになってきました。ただしリスク因子と発症のエビデンス蓄積や正確なバイオマーカーの研究など、今後多くの医学研究の蓄積が必要と考えられています。また先制医療は、個の医療をめざしていて、その意味では米国が提唱している「精密医療(適確医療)」と同じ方向を向いていると考えられています。精密医療はバイオマーカーなどを使って個人に合わせた治療をめざすものですが、それを予防に生かすのが先制医療と考えられています。
 どちらも膨らむ医療費の削減をめざしているといいますが、本当に病人がこうした医療で減っていくのかどうかはこれからの検証が必要です。また医療関係者だけの発想で流れていくのではなく、私たち市民の声、患者の考え方も力強く発言して反映させるべきでしょう。この医療革新をどのように進めていくべきかがいま問われています。




2016年2月17日水曜日

糖尿病が極端に少ない!百寿者の真実

スーパー高齢者のからだの秘密がわかってきたぞ!

 自分がそうなりたいかは別として、100歳以上長生きする人は増え続けています。現在5万人をはるかに超え、50年後にはなんと50万人以上になるのではという推計もあります。日本ではこの100歳を超えた長寿者はめでたく「百寿者」と呼ばれており、英語でも「センテナリアン」という敬称があります。こうしたスーパー老人を対象にして、長寿の謎を探る医学研究が世界中で盛んに続けられています。慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの取り組みもその一つですが、同センターの新井康道さんらの研究でおよそ次のような百寿者像がわかってきました。
 まず100歳を超えて元気なかたの特徴は、圧倒的に元気で見た目が若々しいという特徴があるといいます。また「糖尿病」や「動脈硬化」の症状が少なく、食欲は旺盛で常に何かに熱心に取り組むという生活態度が見られるとのことです。地域で比較すると沖縄や高知など温暖な土地が長寿を育んでいると分析されています。性格の傾向は、男女とも「誠実なこと」があげられ、男性ではものを集める凝り性タイプ、女性では外交的で面倒見がよく、しかも新しものが好きとい特徴がわかっています。食事では乳製品や果物、お菓子など甘いものをよく摂っているという意外な特徴もあるようです。
 では皆病気知らずかといえば、そうでもなくほぼ全員何かしらの病気を持っていて、高血圧、骨折、白内障、心臓病の順に罹患していています(60%~30%程度)。また体形は肥満でも痩せでもない人が多いと報告されています。医学的事実として最も特徴的で特筆すべきなのは、糖尿病患者が極端に少ないこと。東京都内で母数300名での調査ですが、百寿者の糖尿病の罹患率を調べたところ、なんと6%という低さだったといいます。70代の同病罹患率では通常20%ほどですので百寿者は糖尿病を持っていないことが大きな特徴と分析されています。さらに興味深いのは「アディポネクチン」という脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンの値です。アディポネクチンは糖尿病や動脈硬化あるいはがんなどの病気を体内で防御してくれることが知られていますが、百寿者のアディポネクチンの血中濃度は、若い年代のおよそ2倍あることがつきとめられました。また遺伝子(テロメア長)や炎症マーカーによる分析も進んでいて、百寿の医学から、長寿のメカニズムの全貌が明らかになる日もそう遠くはないという感がします。

2016年2月10日水曜日

ジカ熱対策で注目の「生物的防除法」

われらが仲間!コウモリさん頑張って!嫌われ者から救世主へ

中南米で「ジカウイルス」の感染者が急増し心配されています。もともとアフリカ、東南・南アジア、オセアニアなどで感染が確認されていましたが、中南米では感染例がなかったといいます。人々の国を越えての移動が盛んになっていることと、中南米の人々のウイルス耐性がなかったことがその要因としてあげられています。症状は軽いが、妊婦が感染すると新生児に障害が生まれる可能性が指摘されています。媒介するのはネッタイシマカやヒトスジシマカといわれています。日本にはネッタイシマカはいませんが、ヒトスジシマカは日本のどこでも棲息する蚊です。蚊の防除法としてにわかに注目を浴びているのが、「生物的防除」です。報道されているように「コウモリ」を使って蚊を退治する方法です。すでに夜のねぐら(バットボックス)を設置し、コウモリさんを地域に呼び寄せて、この蚊を退治してもらおうと試みている国もあるようです。体重が6kgの小型のコウモリ(ヒナコウモリ)でも、一日に食べる餌の量は3kgでおよそ体重の半分、これを蚊で換算すると500匹程度になると言うのです。つなり彼らをうまく使ってやると衛生害虫の駆除に役立つことが期待できます。しかも、コウモリたちが蚊を食べると体内でウイルスは分解されて無害化するともいわれています。現在ワクチンや抗ウイルス薬がないので、生物的防除への期待はさらに高まります。8月のリオデジャネイロオリンピックでは世界中の人々が集まりますが、さらに国際的なウイルス感染の広がりが危惧されています。日本でもこうした生物的防除を行っている衛生管理会社もあるようです。普段は嫌われ者のコウモリですが、地球上の仲間として名誉を回復し、地域にうまく生息してくれるように誘導すべき時がきたようです。地球の生き物はつながって生きているのです。

2016年2月3日水曜日

悪(わる)の本性ついに解明!ピロリ菌と全身疾病

ピロリ菌とは何者なの?~胃がんだけでなく全身の疾病に関与している細菌

胃がんをはじめとする胃粘膜病変を発症することで知られている「ピロリ菌」。酸性度PHが1から2という、超きびしい環境の胃のなかに潜んで生きる細菌です。かつて胃のなかには細菌は棲めないと考えられていました。しかし胃壁のしわにへばりつくようにピロリ菌という細菌が発見され、これが胃がん発症の主要な犯人ではないかと考えられるようになりました。ただ何故がんを誘発するのか、そのメカニズムなど詳しいことはわかっていませんでした。いまでは胃粘膜にピロリ菌が感染すると、細菌表面の「とげ」から胃にむけてある種の病原タンパク質(CagA)が、胃の細胞に注入され、胃細胞のシグナルがかく乱されてがん化が促進されるということがわかっています。そして問題は胃がんに留まらず、心疾患、血液疾患(紫斑病)、神経疾患などの全身病とも関連があることが議論されるようになってきたのです。つまりピロリ菌はこれまで想像されていた以上に、「悪(わる)」の存在であること次々と明らかにされています。京都大学の秋吉一成教授や東京大学の畠山昌則教授らの共同研究による最新の報告では、病原性の本体と考えられるタンパク質(CagA)が、実はずっと胃に留まっているのではなく、胃の細胞から放出されて全身の循環系に入り、輸送されている姿を明らかにしています。一般に細胞が分泌する微小な組織体(小胞)で、細胞から細胞へ運ばれる「エクソソーム」というものがありますが、CagAはそれは内包されて運ばれているというのが新たな発見です。全くぞっとするような話です。しかも「悪」の生物活性を残したまま、全身を駆け巡っているようなのです。そして興味深いのは、ウイルスや寄生虫などの他の微生物感染でもこの「エクソソーム」が輸送に関与していいることもわかってきました。今後研究が進展すれば微生物感染による疾病を防ぐことや、治療することへつながるこれは大きなステップとなる研究成果ではないでしょうか。現在、地球上の人類の半分はピロリ菌に感染しているといわれています。また日本では、ピロリ菌除菌の治療も保険適用となり広く施術されるようになっています。ピロリ菌を原因とする疾病は、あなどれない広がりをもっている様相を示しています。


2016年1月27日水曜日

新事実!長寿とアミノ酸代謝の気になる関係

~総カロリーの制限だけでは長生きできないの?!ショウジョウバエの実験で

昔から健康には腹八分目という言い伝えがあります。このことを裏付けるように最新の医学では、摂取するカロリーを制限すると、多くの生き物で寿命が延びるという現象が確認されてきました。例えば、酵母菌のような原始的な生き物からはじまり、ショウジョウバエ、マウスそしてヒトでも、そうしたことが科学的に確かめられてきました。そしてこれまでは「総カロリー」を抑えるということが議論の中心だったのですが、実はそうではなく食事(食餌)の質が長生きの秘訣かもしれないという報告が最近出されたのです。東京大学大学院薬学研究科の三浦正幸教授、小幡史明特任教授らの研究では、ショウジョウバエの場合、必須アミノ酸である「メチオニン」が体内で代謝されてできる「Sアデノシルメチオニン=SAM」こそが寿命を短くする正体のひとつであることをつきとめたのです。老化したショウジョウバエでは、このSAMが体内に大幅に増加していることを発見した研究者たちは、このことが寿命を短くしていると考えました。そこで、SAMを分解する酵素の脳力を高めたハエと、分解する酵素の働きを失くしたハエを作りSAMと寿命との関係を探ることにしたのです。各々のハエに、長寿効果があるとされる「総カロリーを制限した食餌」を与えてみると、分解する酵素の能力を高めたハエでは寿命が1.2倍に延びましたが、分解酵素の働きを失くしたハエでは長寿の効果が確認されなかったというのです。この実験からは、総カロリーの制限が長寿効果を生んでいるのではなく、メチオニンというアミノ酸が体のなかで適切に代謝されているかどうかが延命効果のメカニズムであることを示唆しています。ただし、これがヒトにも適用できるしくみかどうかはまだこれから確認がはじまるといいます。ショウジョウバエでは長寿の鍵を握っていたSAM。長生きのための食事のありかたについては、新たな議論がはじまり、ますますおもしろい状況になってきました。


2016年1月21日木曜日

老化は口からはじまるという真理

~ちょっとむせただけ!そう甘く考えていると大変なことに・・・~

人の老化はどこからはじまるのでしょう。血管から、足腰から、あるいは脳からでしょうか。どれも正しい指摘かもしれません。しかし忘れている大切な部位がもうひとつあります。それは、「口周り」の機能です。「口腔(こうくう)」とよばれる、歯や舌など飲みこむまでのお口周りの大切さは日々見直されてきました。例えば、高齢者では肺炎などになるのは口内の細菌が肺に入って起こることがわかってきたり、歯周病菌が糖尿病などの全身病と深い関係があることなども指摘されています。いまでは口腔リテラシーが話題となっていて、お口への意識が高く、口腔ケアが出来ている人は長生きするという報告もあります。さて老化です。口から老化、虚弱への道のりがはじまるのではという考え方があります。例えば、歯周病となって痛くてかめないという事態が起こるとしましょう。この方は、やわらかいものを選んで食べるようになり「低栄養」を引き起こします。心の健康状態を悪くするということも起こってしまいます。そしてなにより、かまなくなるとかむための筋肉「側頭筋」や「咬筋」が徐々に委縮しはじめ、さらにかむ力が衰えていきます。筋肉はやっかいです、つまり使わないとすぐ委縮していくものなのです。骨も同じですが、適度な刺激がないと筋肉量や筋力は維持できません。さらには食べ物を飲みこむ機能が衰えていく可能性があります。食事やお茶を飲むときにむせることがありますが、こうしたちょっとした「むせる」という現象も飲みこむための筋肉や、のどの弁などの協調運動がうまくいかない徴候として注目されているのです。むせる回数が増えてきたという人は、ひょっとするとお口の老化、あるいは全身の老化の入り口に立っているのかしれないのです。対策としては考えられているのは、口腔筋肉のトレーニングとか、のどの弁の動きをよくするという破裂音の発声法などあります。そしていまこの研究分野は新たな概念「オーラルフレイル(お口周りの衰弱)」という言葉が提唱されるようになりました。 (参考:大渕修一著 健康長寿の延ばし方)

2016年1月11日月曜日

既存薬を活用し、適応拡大めざす動き

~難病を救えるか!薬とリポジショニング法~

ノーベル医学生理学賞に輝いた大村智北里大学特別栄誉教授が開発した「イベルメクチン」に難治性のがんである胆管がんを縮小する効果があることが動物実験で確かめられたという発表がありました(九州大学医学部・鈴木聡教授のチーム・2015年12月)。ご存知のように、もともと抗寄生虫薬として注目された薬ですが、同じ薬ががん細胞にも効果を現すというのはとても意外な事実です。作用機序としては、胆管がんの細胞の増殖を促すたんぱく質に対してイベルメクチンが不活性化する働きがあるらしいとのこと。いま、こうした既存の薬品を利用して新たな適応を見つけて、新薬として開発しようというのが現在の治療薬開発のトレンドとなっています。これは「ドラッグリポジショニング」と呼ばれています。一般にゼロから新薬を開発するには、膨大な予算と時間がかかります。そこで既存の薬であれば改めて毒性試験など行う手間が必要ないので、きわめて効率的な開発が期待できるのです。この技術の背景には、疾病の遺伝子解析が進んでいることや、疾病を再現した組織の作成、再現が可能になったことがあるといわれています。iPS細胞の培養技術の進歩も大いに貢献しているようです。京都大学での最近の発表によると、難病の「軟骨無形成症」の患者由来のiPS細胞に、悪玉コレステロールの薬である「スタチン」を投与したところ、軟骨形成が回復したという驚きの報告があります(CiRA・妻木範行氏ら)。この研究では作用機序の細かなところはまだ未解明とのことです。国も注目しており、研究班を立ち上げて神経線維種症など難治性疾患のドラッグリポジショニングを推進しようとしています。上記の九州大学では昨年さっそくこの手法を研究開発する全国初の研究所を開設し、本格的な取り組みを始めました。次々と見つかる既存薬の新たな効能に期待は膨らむばかりですが、実際の治療に用いるにはまだ多くの社会制度や倫理規定などの整備が必要と考えられています。